スポーツにはルール(規則)がつきものです。ゴルフにももちろんルールがありますが、ルールと同じくらい大切にされているのがマナーです。ほかのスポーツ以上に、なぜゴルフではマナーが大切にされているのでしょうか。その理由を考えると、ゴルフというスポーツの本質が見えてきます。
誠実に行動することが求められているゴルファー
「コースはあるがままにプレーし、球はあるがままにプレーする」。
2019年1月に大きな改定が行われたゴルフ規則では、最初に出てくる「規則1 ゲーム、プレーヤーの行動、規則」にこうあります。
ゴルファー各自が、自分の責任において上記を守ってプレーして、スコアを自己申告するのがゴルフの基本です。競技ゴルフには競技委員会があり、裁定を下すことはありますし、世界のメジャーのような大きな大会には、各組に競技委員が付くこともあります。それでも、トラブルが起きた時やプレーの順番など以外は、ゴルファー自身が様々なジャッジをしながらプレーして、自分でスコアを申告するのが基本となっています。
一緒にプレーしているゴルファー、ストロークプレーなら同伴競技者、マッチプレーなら相手が確認する。ゴルフが“審判のいないスポーツ”と呼ばれる所以です。規則では、誠実に行動することがまず求められ、他の人に配慮を示すこと、コースをしっかりと保護すること、と続くのです。
規則に基づく罰はなくとも、ゲームの精神に反する行動をしたことに対して、委員会がそのプレーヤーを失格とすることができることも書かれています。
「誠実に行動し、他の人に配慮し、コースを保護する」ということは、ゴルフにおいてそれほど大切にされていることなのです。
その気になればインチキできるからこそ、誠実であれ!
裏を返せば、ゴルファーがよこしまな気持ちを持てば、ごまかしやインチキができる場面はいくらでもあるということです。
広大なゴルフ場で、それぞれがボールを打って行けば、誰も近くにいないことも少なくありません。「あと30㎝内側ならOBじゃない。動かしちゃえ」、「誰も見ていないから、違うボールを出して打っていってもわかりはしないだろう」などという、悪魔のささやきに負けそうになる場合もあるでしょう。
けれども、それを行ってしまったら、スコアはよくなる(ごまかせる)かもしれませんが、スポーツとしての面白みはどんどん失われていってしまうでしょう。
「競技じゃなく、遊びだからそんなにうるさいこと言わなくてもいいじゃん」という声もあるでしょう。けれども、例えエンジョイゴルフでも、自分のことはだませません。「ベストスコアが出た」と思っても、「ホントはあそこでズルをしたんだけど」という言い訳が、心のどこかに常に残ってしまうはずです。
同じ組でプレーしている人同士、あるいは同じコンペでプレーしている者同士が「遊びだから」と思っている場合でも、その線引きがそれぞれ違ったらどうでしょう?
「これくらいいだろう」の程度がそれぞれ違ったら、コンペでスコアを競うことなどできなくなります。また、誠実にプレーしている人は、そうでない人とプレーしたくなくなるでしょう。
「あの人はインチキをする」というレッテルを張られたゴルファーとプレーしたい人は多くないでしょう。楽しみがどんどん減っていくことになります。
危険も伴うマナー違反
マナーをないがしろにし、ほかの人への配慮を怠るとどうなるでしょう?
危険にさらされる場合もあります。前の組に打ち込んでしまったり、他の人を気にせず打つ人の前に出てしまってボールに当たってしまうことは珍しいことではないのです。
硬いゴルフボールは、当たり場所によって生命にかかわることもあります。相手を危険にさらし、自分には人を傷つけたという”前科“が残るのです。プレーが遅ければ、どんどん後の組に影響が出て、最後の組は日没までのホールアウトができないかもしれません。
他の人が打つ前に騒いだら、その人のプレーに影響が出ます。グリーン上でラインを踏むのも同様です。みんなが気分よくプレーするためには、他の人への配慮が必要なのです。
また、コースの保護に気を使わなかったらどうでしょう。グリーンについた傷をそのままにしていたり、ディボット跡をそのままにして次のプレーに行ってしまったら、後から来るプレーヤーはイヤな思いをします。スコアに影響が出ることもあるでしょう。
芝は繊細なものです。特にグリーン上の傷などは、放っておいたら何日も修復されず、コースのメンテナンスは大変になります。何日も前のプレーヤーの心ない行いが、後々に響くのです。
友人が増えたり、世界が広がるのも、ゴルフの魅力の一つです。それを楽しむための大前提が規則。同じくらい大切なのがマナーなのです。
難しく考えることはありません。「また一緒にプレーしたい」と思われるようなゴルファーになってみてはいかがでしょう。
文/小川淳子