◆国内男子プロツアー<中日クラウンズ 4月28日~5月1日 名古屋ゴルフ倶楽部和合コース(愛知県) 6557ヤード・パー70>
飛距離はなくても、正確性はピカイチ。日本の「ミスター正確性」稲森佑貴が、雨でさらに難度を増した和合を曲がらないショットを武器に攻め切った。中日クラウンズ最終日は、首位と2打差の3位でスタートした稲森がベストスコアとなる8バーディー、1ボギーの63をマーク。通算16アンダーで2位に3打差をつける逆転優勝を飾った。
飛ばなくても曲げないことが武器になる
水を含んだ重いラフに各選手が顔をゆがめる。フェアウェイを捉えても、ランが出ずにグリーンまでの距離が残り、ラフやバンカーにつかまるシーンが続出した。
そんな中、5月2日現在、フェアウェイキープ率1位、ドライビングディスタンス110位の稲森が、涼しい顔でホールを重ねていく。
圧巻だったのは8番からの3連続バーディー。一気にトップを奪うと、14番で第2打が木を直撃するピンチも、絶妙なアプローチで1パットのパーでしのぐ。各選手が苦しむ表情をよそに、その顔には時折笑みすら浮かんだ。終盤はライバルたちに、付け入るスキを与えなかった。
“アメリカのレジェンド”カルビン・ピートは10年連続フェアウエーキープ率1位
ジャック・ニクラウス、トム・ワトソン、セベ・バレステロス、グレッグ・ノーマン、ニック・ファルドら群雄割拠の時代だった1981年から1990年。その時期に10年連続でフェアウェイキープ率1位の座に君臨し続けた男がいる。「ミスター・アキュラシ―(ミスター正確性)」「精密機械」の異名を取ったカルビン・ピートだ。
82年には84.6%という驚異的な数字を叩き出し、この10年のうち80%台を切ったのは84年のみ。その間に、平均ストローク1位(1984年)と3度のパーオン率1位を獲得し、1979年から1986年までに12勝を挙げたレジェンドで、ライダーカップ(1983、1985)、日米対抗(1982、1983)、ニッサンカップ(1985)の米国代表にも選ばれている。1982年のダンロップフェニックス(宮崎)での優勝も、オールドファンの記憶にはあるはずだ。
1987年から腰痛を悪化させたが、そのフェアウェイキープ率は、晩年の1992年でも7試合と少ない出場機会で参考記録ながら88.2%という驚異的な数字を残している。だが当時は48歳と峠を越え飛距離もさらに落ちており、ドライビングディスタンスは235.1ヤードで、順位のつかないランク外に追いやられていた。
23歳の時に友人の誘いでゴルフを始め、9年後にPGAのクオリファイイングスクールをパスした遅咲きのプロは、飛距離を犠牲にしてもフェアウェイさえとらえれば、十分勝負になることを証明した。
6季連続1位“日本一曲がらない男”稲森佑貴
「ピートの伝説」を今、日本で再現しているのが稲森だ。
すでに6シーズン連続でフェアウェイキープ率1位の座に座り続け、今年も79.018%でトップを快走中。ドライビングディスタンスはといえば265.75ヤードで110位と低空飛行が続いているが、狭く、厳しいセッティングであればあるほど、その正確性がアドバンテージとなることも今回改めて証明した。
すでに2018、2020年と、難しいセッティングとなる日本オープンを制している稲森。ピートが成し遂げた80%のフェアウェイキープ率と、10年連続の同タイトル連続奪取が成し遂げられるとき、さらなる日本オープンタイトルを始めとするビッグタイトルが転がり込んでくる可能性も跳ね上がる。
すでに正確性だけなら世界水準にあると言っていい。海外経験を積極的に積んでいくことで、偉業もぐっと近づいてくるはずだ。