松山英樹の「フォー、ライト!」はアメリカンな証【舩越園子 ゴルフの泉】

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世界で戦い続ける松山英樹 写真:Getty Images

カタカナ英語や和製英語など、海外の人には通じない日本独自の言葉があるのは皆さんもご存じですよね。実際に使ってしまい、恥ずかしい思いをしたことがある方もいるかと思います。今回は、アメリカ生活が長くなったせいで、日本のゴルフ場では口にできなくなってしまった掛け声の話です。

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アメリカでは「フォー!」

 1993年に渡米した私は、すぐにアメリカのゴルフ場へ繰り出しました。そこには日本とは異なる驚きがたくさんありました。

 ショットが右や左に大きく曲がり、隣のホールの方向へ飛び出したとき、日本では「ファー!」と叫ぶものだと思っていましたが、アメリカでは誰もが「フォー!」と叫ぶことにも最初は驚かされました。

 前方への注意を促すこの言葉、英語の綴りは「Fore」なので、発音をカタカナ表記すると「フォア」になります。しかし、聞いた感じは「フォー」です。そして、右前方注意なら「フォー、ライト!」、左前方注意なら「フォー、レフト!」と叫びます。

 アメリカツアーの試合でも、選手やキャディが身振り手ぶりを交えながら「フォー、ライト!」「フォー、レフト!」と叫んでいるのです。

 渡米から間もなかった当時の私は、そんなアメリカのゴルフ英語の使い方を覚えたことが妙にうれしくて、ラウンド中、自ら「フォー、ライト!」と叫び、「うわっ、ちょっとアメリカン!?」と秘かに喜んでいました。

松山英樹が発した「フォー、ライト!」

2021年マスターズでメジャー初制覇 写真:Getty Images

 それから20年近い歳月が流れ、松山英樹がアメリカツアーにやってきました。

 松山選手は、最初は「英語は、なーんもわからないです」と言っていましたが、そう言いながらもゴルフ英語は自ずと必然的に身に付けていきました。そんな彼が試合会場という公の場で、おそらく初めて自ら口にした英語は、偶然にも「フォー、ライト!」でした。

 2015年『ブリヂストン招待』の練習ラウンドで、ドライバーショットが大きく右に飛び出したとき、彼は咄嗟に右手で右方向を指し示しながら、大声で「フォー、ライト!」と叫んだのです。その発音がネイティブ的なナイスな発音だったことが、私にとっては少々驚きで、ちょっぴりうれしく感じたことを覚えています。

 ちなみに、2019年から活動拠点を日本へ移した私は、ほぼ四半世紀ぶりに日本のゴルフ場へ繰り出しました。立派なクラブハウスの前で丁寧なお出迎えを受け、フロントで受付を済ませると、小綺麗なロッカールームへ。そうした手順の何もかもが昔のままであることが、とても懐かしく感じられました。

 また、誰かのショットが大きく曲がったとき、ハウスキャディの女性が甲高い声で「ファ~~~~!」と叫び、打った本人も同組の仲間たちも「ファー~~~!」と叫ぶ光景も昔のままでした。

 しかし、この「ファー」だけは「far(遠い~~!)」と叫んでいるように思えてしまって、どうしても口にすることができません。だからと言って、みんなが「ファー」と言っている横から私だけ「フォー、ライト!」と英語そのものを叫ぶのは、アメリカでは当たり前にやっていたことですが、日本では何やら小っ恥ずかしく感じられるのです。

 結局、「ファー」も「フォー」も言えない私は、「あー、右だー!」などと口走るのが精一杯。日本からアメリカへ渡り、アメリカのゴルフに浸り過ぎた後に日本に戻ってきた私は、今、日本のゴルフ場で「迷えるゴルファー」と化してしまっています。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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