2021年の全米オープンで、2日目に首位に立った無名の48歳、リチャード・ブランド(英)が大きな注目を集めました。今回は彼の人間性の良さに関するお話です。
決して諦めない、決して辞めない
1996年にプロデビューして以来、20年以上もの間、1勝も挙げられず、シード落ちしては這い上がる生活を続けてきたブランド。好きな言葉は「決して諦めない。決して辞めない」だそうですが、なぜ彼は、そんなにも頑張り続けてこられたのでしょう。
最大の理由は「ゴルフが大好きだから」。そして、もう1つの理由は、「大好きなゴルフで社会の役に立ちたいから」だそうです。
2017年、ブランドの兄ヒースが風邪を引きました。正確には「風邪のような症状だった」そうですが、兄の体調はみるみる悪化し、緊急入院。そして、兄の心臓は数秒間停止し、すぐに鼓動は再開しましたが、それから数週間、意識不明となって生死の境をさまよい続けたそうです。
活躍できなくても寄付を続けるブランド
「ヨーロッパのゴルフ関係者やファンが兄のためにチャリティ・イベントを開いたり、クラウドファンディングを立ち上げたりしてくれたことが、心底ありがたく、うれしかった。だから私はゴルフに感謝し、私もゴルフで社会に恩返しをしたいと思いました」
やがて兄ヒースは意識を取り戻し、その年のクリスマスには兄弟揃ってパーティーに出席することができました。その後、ブランドは、たとえ勝てなくても、下位続きで賞金を稼げなくても、1バーディーを獲るたびに小さな寄付をする活動をひっそりと続けています。寄付をする先は小児病院などが主体ですが、今年の全米オープンに出場したときは、南アフリカの密漁反対を唱える団体への寄付を1人で集めていました。
「だって、私が嫌いな言葉は3パットと動物虐待だからね」
大真面目だが、どこかユーモラス。48歳での全米オープン制覇は叶いませんでしたが、「もうすぐシニアでメジャー優勝を目指すよ」と笑顔を見せてくれたのがとても印象的でした。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)