海外メジャーの中には、1997年のマスターズのように「タイガー・ウッズが初めて勝ったメジャー」と表現される大会があります。また逆に、「誰々が負けた大会」と言われるメジャーも度々あります。今回は、「ジャン・バンデベルデが負けた大会」として記憶されている1999年の全英オープンの優勝者、ポール・ローリーのお話です。
1997年のマスターズはタイガー・ウッズが初めて勝ったメジャー
ゴルフのメジャー大会は、「誰々が勝った大会」と表現されることがあります。たとえば、「タイガー・ウッズが初めてメジャーで勝った大会」と言えば、1997年のマスターズのことです。
しかし、「誰々が勝った」ではなく「誰々が負けた大会」という具合に、敗者の名前が出され、勝者の名前がどこかへ消えてしまうことが、ときどきあります。
ジャン・バンデベルデが負けた大会
スコットランドの名コース、カーヌスティで開催された1999年の全英オープンは、まさに、その代表例です。フランス人選手のジャン・バンデベルデが優勝目前で崩れてプレーオフにもつれ込み、ポール・ローリーに勝利を差し出してしまったあの大会は、「バンデベルデが負けた大会」として人々の記憶にも、歴史にも、刻み込まれてしまいました。
あのときローリーが勝つことを事前に予想していた人は皆無に近かったと思います。だからローリーは「棚ぼた優勝」と言われ、その後、目立った活躍がなかったせいもあって、ローリーは「忘れられたチャンピオン」「消えたチャンピオン」と思われていました。
「忘れられたチャンピオン」のその後
しかし、あの全英オープンから10年以上が経過した2010年のこと。私は全英オープンの開幕前に、近郊で開かれていた現地のジュニアオープンの取材に向かいました。その開会式で大会名誉会長としてスピーチをしたのは、驚くなかれ、ローリーでした。開会式が終わるやいなや、子どもたちは全員、ローリーに駆け寄り、うれしそうにサインをもらっていました。
そう、スコットランドでは、ローリーは全英オープンを制した母国のヒーローなのです。そして、ジュニアオープンで大会名誉会長を務め、長年、地元のジュニアゴルファー育成に力を注いでいるローリーは、地元の英雄なのです。
「忘れられたチャンピオン」「消えたチャンピオン」ではなく、ローリーは燦然と光り輝いている。そんな彼の「本当の姿」を見ることができて、とてもうれしくなりました。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)