長いシーズンの中には、注目選手が不在のトーナメントというのはよくあります。取材する側にとっては、ややテンションが下がるものですが、スターだけを取り上げることが本当の取材ではないと、改めて気づかされたツアー最終戦でのお話です。
スター選手不在はメディアにとっては痛手
アメリカツアーのシーズン最終戦、ツアー選手権はトッププレーヤー30名が勢揃いする華やかな大会です。
しかし、2011年のツアー選手権は、成績が低迷していたタイガー・ウッズの姿がなく、ローリー・マキロイなどの欧州勢も出場しておらず、おまけに試合会場一帯は雨続きで天気も冴えず、地味でつまらない大会になってしまったと感じていた私は、たぶん暗い顔をしていたのだと思います。
メディア用のダイニングルームに入ろうとしたときのこと。入り口の警察官が私の顔を見るなり、こう言ったのです。「知ってるかい?あのマシーンは130種類のフレーバーが楽しめるんだよ」。
あのマシーンとは、大会の冠スポンサーがダイニングルームに設置した新型のコーラの機械。「コーラ」というボタンを押すと何種類ものコーラの選択肢が飛び出し、「ウォーター」というボタンを押せば、何種類もの水の選択肢が出てくるという仕掛けで、その選択肢の合計が130種類もあるというのです。
「えー、すごーい!」と私が驚くと、ポリスのおじさんは、「おー、やっと笑顔になった」と言って大笑いしました。
ちょっぴり明るい気持ちになって昼食を取り、再び外に出てみると、練習グリーンではバッバ・ワトソンが手や足に障害を持つ子どもたちにパットを教えていて、みんなニコニコしていました。
スーパースターだけが大会の主役じゃない
練習場では、ビジェイ・シンやK・J・チョイといった外国人選手たちが招待客の方々にレッスンをしており、ここにも笑顔が溢れていました。
「レッスンは教える相手とコミュニケーションできるから楽しいよね」と、日ごろはあまり愛想がないシンが、珍しく笑顔を弾けさせていました。
そう、試合会場ではスター選手や注目選手にばかり目が向いてしまいがちでしたが、大物が不在だったこの試合では、見逃していた大事なものに気づくことができました。
気持ちがふさいだら、まずは誰かとコミュニケーション。足を運べば誰かに出会い、優しい気持ちで言葉を交わせば笑顔が生まれる。そんなことを学んだひとときでした。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)