メジャーリーグの大谷翔平の活躍による大谷ブームはアメリカでも凄まじく、向こうの解説者も「オオタニサン」や「スゴイ!」などと日本語を使って解説していることが今や普通になっていますが、2021年のマスターズの際も同じようなことがありました。今回はマスターズで松山英樹が優勝した際に起きた、ある出来事に関するお話です。
実況担当チームも熱くなっていた!
松山英樹が優勝したマスターズを日本で生中継していたテレビ局のアナウンサーや解説者、ゲストら実況担当チームが、優勝が決まった瞬間、みな感極まって泣いてしまったことが、日本では大きな話題になりました。
これまでマスターズをずっと中継してきて、そこで戦う選手たち、もちろん松山選手のこともずっと眺め続けてきて、山だけではなく谷も見てきたからこその感無量だったのでしょう。彼らの心情は、私にもとても理解できるものでした。
実況担当チームの人々の熱い想いは、優勝が決まって初めて溢れ出したわけではなく、最終日の松山選手のプレーを伝えている段階からすでに溢れていました。
そして、松山選手の一球一球に、激しく一喜一憂していた実況担当チームの様子は、実を言うと、マスターズを中継していたアメリカのテレビ局によるアメリカ向けの放送の中にも、あの日だけは、日本語の音声のまま、何度か挟み込まれていました。
日本の実況をそのまま使うというアメリカTV局の粋な判断
最終日のラウンド中、たとえば松山選手がピンそばにピタリとつけたのを見て、日本のテレビ局のアナウンサーが「来ました!バーディーチャンス!」という具合に興奮しながら声を張り上げ、中嶋常幸プロもそれを受けて「これは行くな」と応じると、その会話部分がアメリカの中継の中でそのまま流されていました。
流し終えたあと、アメリカのアナウンサーと解説者が「誰か通訳してよ」「いや、日本語はわからないけど」と笑いながら言ったりもしていましたが、これはまさに、日本語がわからなくても気持ちは伝わるし、心は通じ合えると考えたアメリカのテレビ局のユニークで粋な判断だったのではないでしょうか。
アメリカのマスターズ中継に日本語の会話が何度も挟み込まれて米国の視聴者に届けられたことは、私が知る限りでは、この四半世紀において初めてのことでした。それほど松山選手によるマスターズ優勝は、意義もインパクトも大きかったという証です。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)