プレーオフで穴井詩が復活優勝!勝因は「方向性重視」と「たくましさ」

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3年8か月ぶりのツアー4勝目をあげた穴井詩 写真:Getty Images

◆国内女子プロツアー<ヤマハレディースオープン葛城 3月30日~4月2日 葛城ゴルフ倶楽部 山名コース(静岡県)  / 6480ヤード・パー72>

方向性重視こそが、3年8か月ぶり優勝のカギだった。JLPGAツアー今季第5戦『ヤマハレディースオープン葛城』は、風と硬く速いグリーン、そして難しいピン位置の中、大混戦が繰り広げられた。そんな中で、通算9アンダーと踏ん張った穴井詩とささきしょうこがプレーオフに突入。2ホール目でバーディーを奪った穴井が、2019年『NEC軽井沢72ゴルフトーナメント』以来となるツアー4勝目を飾った。飛ばし屋が、方向性を重視して臨み、手にした勝利だった。35歳になった今もパワフルな穴井のたくましさの原点に迫る。

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「ムダな時間は1つもなかった」たどり着いた復活優勝

 ドカン!と大きな音がした。18番パー5で行われたプレーオフ1ホール目。先に打った穴井のティーショットが右に出て、林の上にあるテレビカメラ塔にぶち当たったのだ。

 幸い、ボールはすぐ下のフェアウェーに落ちてきた。ティーイングエリアが前に出され、498ヤードに設定されたこの日の設定で、飛ばし屋のアドバンテージは生かせなかった。

 「すごい緊張していたので、右にすっぽ抜けてしまったんですけど、本当にあれで終わったのかと思いましたが(フェアウェーに)かえってきてよかったです」と苦笑する1打。だが、フェアウェーに戻ってきたラッキーを、穴井は逃さなかった。

 このホールをパーで切り抜け、向かった2ホール目も同じ18番の繰り返し。先に右のバンカーから1.5メートルに乗せたささきが、バーディーパットを外した直後、右のバンカーから左1.5メートルにつけていたチャンスを穴井が沈めて、勝負に決着をつけた。

 地面に叩きつけるような力強いガッツポーズを、2度。万歳で自らを祝福する姿には、万感がこもっていた。優勝スピーチでは、勝てなかった4年近くの時間を振り返り「無駄な時間は1つもなかった。かかるべくして時間がかかったのかな、と思います」と、しみじみと口にした。

 「本当に夢なんじゃないかと思っているくらい実感がないんですが、オフにやってきたこととか、練習してきたことが結果として現れたのかなと思ってすごくうれしいです」。静かな喜びが、過ごしてきた時間の濃密さを感じさせた。

優勝を決め力強いガッツポーズ 写真:Getty Images

プロになった後もアルバイト掛け持ちではい上がるたくましさ

 ゴルフの基礎は、高校時代に米国で磨かれた。

 ゴルフ留学ではなく、中学2年生の途中、父の仕事の都合でマサチューセッツ州ボストンへ。スポーツ、特にボール遊びが大好きで、小学校5年の頃に自宅近くのゴルフスクールでクラブを握り始めていた3人きょうだいの末っ子は、レキシントン高校ゴルフ部に入った。

 最高の練習環境でゴルフにどっぷりとつかり、試合の経験も積んだ。パブリックスクールで、決して得意ではなかった英語だけの授業に必死で取り組んだ。

 卒業後はフロリダ州のノバサウスイースタン大学に、フルスカラシップで入学した。ところが、ここでつまずいたのが一般教養課程の数学だった。米国では、どんなに有望な選手でも成績が悪ければ試合に出られない。穴井は1年もたたずに大学を離れた。

 入学時、スカラシップでかからない学費の分として父からもらった200万円を最後に、自立を決意。ミニツアー出場などを経て帰国し、プロを目指す道を選んだ。

 インターネットで研修生となる道を探し、2008年プロテストに一発合格。だが、ここからお金に苦労した。

 プロになればすぐに稼げるというものではない。キャディ、個人指導の塾講師などのアルバイトを掛け持ちしながら、時間をやりくりして練習に励みんだ。家族は頼らず、自分の手でプロとして活躍する。その一心だった。

 ここからはい上がり、2016年『ゴルフ5レディス』でツアー初優勝。3勝を挙げたが、その後、勝利から遠ざかる。2022年には、メルセデスランキング48位とシード権獲得もギリギリのラインだった。

 ここから、一転して復活。勝因を、「今週は今日を除いて力感のコントロールが上手にできていたのかなと思います」と分析する。

 昨年はツアーNo.1(257.49ヤード)となったツアー屈指の飛距離は、今年も健在(現在256.50ヤードで2位)だが、コントロールを重視。「(最終日以外の)3日間だけを見れば、3回だけしか(フェアウェーを)はずしていなかったと思うんですけど」と笑うほどの安定性を意識しての勝利だった。

 35歳になった今も、「複数回優勝はゴルフ人生でやってみたいですし、(日本の)メジャーは獲りたいな、と」と、貪欲な穴井。自立心からくるたくましさは、若さに勝るとも劣らない。

悔し涙でリベンジを誓ったささきしょうこ

プレーオフでバーディーパットを外し天を仰ぐささきしょうこ 写真:Getty Images

 「今できることの最大限はやったんじゃないかな、と思います」。ささきは、悔し涙を浮かべながら、自らに言い聞かせるように言った。

 3週前の明治安田生命レディスヨコハマタイヤゴルフトーナメントに続くプレーオフ負け。調子がいい中で、なかなか勝てないもどかしさは隠せない。

 実は、前週の『アクサレディスin MIYAZAKI』は予選落ちだったが、その後、体調を崩した。4日間の今大会のスタートまでは4日しかない。扁桃腺炎もあり、欠場も考えた。だが、ぶっつけ本番での出場を選んだ。そこから、優勝争いをしたことを、自ら前向きにとらえた。

 「この位置でプレーできたのは、この試合が始まるまでは思っていなかったことなので、いい1週間だったんじゃないかと思います」と、次に気持ちを切り替えていた。

 2度のプレーオフ以外も、開幕戦『ダイキンオーキッドレディスゴルフトーナメント』での5位など好調なだけに、2018年以来のツアー4勝目に向けた戦いに全力を注ぐ。

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