◆国内女子プロツアー<アース・モンダミンカップ 6月23日~6月26日 カメリアヒルズカントリークラブ(千葉県) 6639ヤード・パー72>
木村彩子が見事な逆転劇で初優勝を飾った。女子ツアー史上最高の総額3億円、優勝賞金5400万円がかかったアース・モンダミンカップは、連日の強風と猛暑でタフな表情を見せるコースとの戦いとなった。最終日も上位陣が苦しむ中、3つスコアを伸ばした木村が、通算4アンダーでささきしょうこ、西村優菜に1打差で優勝した。
賞金はアルバイト時代の5万4000時間分!?
5万4000時間分を一気に稼いだ。
高校卒業後の2014年、プロテストに落ちて何もやる気がなくなった木村は、母に尻を叩かれてアルバイトを始めた。時給1000円。今はもう閉店してしまった東京駅近くの中古ゴルフショップ、ゴルフパートナーだった。
それから8年。気持ちを切り替え、2015年のプロテストに合格し、7年目の初優勝でいきなり大きな賞金を手にして、「まだ夢みたいで。自分が優勝できるなんて」と、目を丸くした。
アルバイト時代には、「売り上げが上がればインセンティブで給料が増える」のになかなかうまくいかず、店長と相談して、名札に『ベストスコア67』(当時)と書き加えたところ、一気にお客から声をかけられるようになった。
情景が目に浮かぶ。サラリーマンだらけの東京駅八重洲口近く、若い女性の中古ショップ店員が珍しいところに、さらにゴルフの腕前もすごい。「ゴルフうまいの?」「クラブに詳しい?」と聞かれる機会が増えた。
やがて、プロ志望だとわかると、時給1000円プラスαで働くより、一気に稼げるプロを目指すことを勧められるようになる。
テスト不合格のショックから立ち直り、再びやる気になった。
2015年、2度目の挑戦でプロ合格。2018年に賞金ランキング43位でシード入りしたものの、翌年は手放した。2020‐2021年に32位となり、シード復活。迎えた今年、花開いた。
最終日4アンダーを目指してプレー
タフなコンディションの中、目標を高く掲げてプレーした。
2日目、3日目に続く強風予報の最終日だったが、「ハーフ2アンダー、合計4アンダーを目指しました」と口にする。前日の後半、アンラッキーもあったが40を叩いたのが悔しかったからだ。
2019年12月から見てもらっている南秀樹コーチやキャディの坂口悠菜さんと、毎日”作戦会議“。首位のささきしょうこと6打差あった最終日は、「攻めていかないといけない。バーディーをしっかり入れていこう、奥に行ってもいいから突っ込んでいこう」と臨んだ。
最初のバーディーは5番。残り110ヤードを9Iで打って3メートルにつけると、7番でも残り103ヤードを9Iで3メートル。通算3アンダーとして、ジワリと差を詰める。
ラフからボギーを打った10番で嫌なムードが一瞬ただよったが、11番で、手前のエッジから25ヤードのアプローチを直接カップに放り込むチップインバーディ。流れを引き戻した。
14番パー5では、107ヤードのフォローをピッチングウエッジでカップ脇にピタリ。通算4アンダーで終盤に向かった。
15番グリーンのそばに合ったリーダーボードで自分が首位に立っていることを見た直後に、いきなり緊張に襲われる。
「16番に向かうゴンドラの中で、シャインマスカットを食べたんですけど、緊張で吐きそうになってしまって。私、緊張してるんだ」と気付いたが、上り3ホールもしっかりとパーで収め通算4アンダー。クラブハウスリーダーとして後続を待った。
同じように追い上げてきていた1組後の西村優菜は、3アンダー止まり。そして、最終組のささきが、18番でカラーからの4.5メートルのバーディパットを外した瞬間、木村の勝利が決まった。
「小さくて飛距離が出ない選手でも勝てるということを証明したい」
今回の優勝で、さらに貪欲な気持ちが出てきた。「勝てるうちにたくさん勝ちたい。この流れを大切にしたいです。今年、少なくとももう1勝は」と、高らかに宣言している。
将来的には、長くゴルフを続けていきたい気持ちが強い。
「たくさん勝てる選手、息の長い選手になりたいです」と言った後、こうも付け加えた。「私(身長155センチ)や西村優菜選手(身長150センチ)のような小さくて飛距離が出ない選手でも、勝てるということを証明したい」。
小兵の挑戦はまだまだ続く。