今やPGAツアーの中心選手になったジョーダン・スピースですが、過去に忘れられない悔しい思いをした経験があります。今回はその時のスピースの心情にまつわるお話です。
優勝争いから一気に転落したジョーダン・スピース
2015年のマスターズを制したのは、当時のゴルフ界で大きな注目を集めていたジョーダン・スピースでした。
前年のマスターズで手に汗握る優勝争いを演じ、初出場ながら2位になったスピースは、翌年のマスターズを見事に制覇し、アメリカゴルフ界に彗星のごとく現れたヒーローとして崇められ、輝いていました。
そんなスピースがその翌年、2016年のマスターズでも首位に浮上したときは、アメリカのゴルフファンの興奮は頂点に達し、最終日の前半を終えたときまでは、スピースの大会2連覇はほぼ確実と思われていました。
しかし、後半に入った途端、スピースは崩れ始め、アーメンコーナーと呼ばれているオーガスタ・ナショナルGCの難所、パー3の12番で「7」を叩いてしまったのです。
そして、着々と追い上げてきたイギリス人のダニー・ウィレットに優勝の栄冠を差し出してしまいました。
悔しさを噛み締めながらのグリーンジャケット授与
スピースにとって何よりの屈辱だったのは、自分が2年連続で羽織るはずだったグリーンジャケットを、ウィレットに羽織らせなければならなかったことでした。
マスターズでは、前の年の優勝者が新たな優勝者にグリーンジャケットを羽織らせることが習わしになっており、悔しさを噛み締めながら、それを行なうことは、スピースにとっては屈辱の儀式でした。
表彰式のあと、アメリカ人記者たちに囲まれたスピースは、「表彰式で立つべき場所に立ち、笑うべき場面でちゃんと笑顔を見せてきたよ」と自嘲気味に言いました。
その途端、スピースの目には悔し涙が溢れ出しましたが、彼は顔をそむけながら上を向き、溢れた涙をメディアの前ではこぼさないようにと必死でした。
それは、前年のマスターズ覇者として、あるいは今年も優勝ににじり寄った選手として、スピースが見せたせめてものプライドだったのではないか。私には、そんなふうに感じられました。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)