日本ゴルフツアー機構(JGTO)の会長として男子プロゴルフ界を牽引する青木功選手。世界の舞台で活躍した日本人プロゴルファーのパイオニア的な存在でもありますが、今回はそんな青木選手が本物のカリスマだと感じさせられたお話です。
青木功のブロークンな英語でのコミュニケーション力
10数年前の夏、全英オープンを取材した翌週、近郊で開催された全英シニアオープンに足を運びました。日本の青木功選手に会いたかったからです。
開幕前の練習日に、こんな出来事がありました。
クラブハウスの中でヨーロッパの黒人選手がサンドイッチを持ってきて、「イサオ、これ、うまそうだろ?」と自慢げに見せました。すると青木選手はブロークンな英語で、「いいなあ。それ、どこにあった?」と、大はしゃぎしたのです。
「あの選手は誰ですか?」と尋ねたら、青木選手は、「名前なんて知らねえけど、こういうコミュニケーションが最高なんだよ。名前知らなくたって『おうっ!』と言えば『おうっ!』ってな。それで会話があればいいんだよ」と笑顔で教えてくれました。
そんなふうに、青木選手はいつも体当たり。さすが「世界のアオキ」だと思いました。
選手からかけられた初めてのお礼の言葉
当時の青木選手は68歳。全英オープンでテレビ解説を務めた際に体調を崩し、自らが出場した翌週は、練習ラウンド抜きのぶっつけ本番でした。
しかし、「オレのプレーを見たくてチケット買ってくれた人が1人でもいたら申し訳ない」と言って、体当たりで出場したのです。
結局、思うようなプレーはできませんでしたが、ホールアウトした青木選手から、いきなりかけられた言葉は、「18ホール、見てくれて、ありがとうな」というお礼の言葉でした。
ゴルフジャーナリストが選手のプレーを見るのは当たり前なので、プレーを見たことに対して選手からお礼を言われたのは初めてでした。
だから私は、一瞬、面食らい、返す言葉が見つからずに、「お疲れさまでした」とだけ言いながら深々と頭を下げました。ホールアウトして口にした「ありがとうな」の一言で、周囲を唸らせる力は、さすがでした。
そんな力のことを、世の中ではカリスマと呼ぶのだと思いました。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)