家族想いで有名なフィル・ミケルソンですが、今回は2010年に3度目のマスターズを制した際の裏側のお話をしたいと思います。
他人事とは思えなかったミケルソン夫妻の闘病生活
フィル・ミケルソンの愛妻・エイミーと実母・メアリーが相次いで乳がんと診断されたのは、2009年5月のことでした。ミケルソンはすぐさまツアーから離れ、妻と母の闘病生活を支え始めました。
実を言えば、あのときは私自身が、その半年前に子宮頸がんの手術を受け、取材活動に復帰したばかりだったため、ミケルソン夫妻が置かれていた状況は他人事とは思えませんでした。そして私はミケルソンのマネージャーにこんな伝言をお願いしました。
「私はキャンサー・サバイバーとして、今、元気に取材しています。フィルとエイミーに『どうか希望を捨てず、しかし焦らず、気持ちを強く持ってほしい』と伝えてください」。
心から出た3度の“サンキュー”という言葉
その後、ミケルソンは、その年の秋に戦線復帰し、翌2010年の春、3度目のマスターズ制覇を果たしました。
18番グリーンの奥で弱々しく立って待っていたエイミーを、ミケルソンは優しく抱き寄せ、熱いキスを交わしました。
その場面に世界中がもらい泣きした小1時間後、優勝会見を終えて屋外に出て来るはずのミケルソンを、私は会見場の裏口で1人で待っていました。
「おめでとう」を直接伝えたい一心でした。裏口の扉が開き、グリーンジャケット姿で出てきたミケルソンは、私の姿に気付くと、すぐに近寄ってきてくれました。
「おめでとう、フィル!」「サンキュー。サンキュー」。彼は私の肩をポンポンと叩き、深く頷きながら、もう一度「サンキュー」と言いました。
彼の手のぬくもりと3度の「サンキュー」に込められていたものは、「がんに負けるな」「頑張って生きよう」というメッセージだと私は感じました。
あのわずか数秒間の出来事は、私の記憶の中の最大最高の名場面となり、今でも鮮明に思い出されます。