人種差別的言動を「アメリカの恥」と言い切ったキャディーの話【舩越園子 ゴルフの泉】

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フィル・ミケルソン(右)とキャディーのジム“ボーンズ”マッケイ(写真は2008年のスコティッシュオープン) 写真:Getty Images

人種座別に対する抗議運動は世界中で行われていますが、多種多様な民族が住むアメリカでは時に悲しい出来事につながることもあります。今回は、スペイン人のセルジオ・ガルシアへの差別的言動に対するアメリカ人キャディーのリアクションについてのお話です。

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セルジオ・ガルシアに向けられた人種差別の言葉

 近年、アメリカでは人種差別に抗議する運動がたくさん起こり、その動きは世界へ広がっています。人種差別のない世の中になってほしい。私もアメリカで悲しい出来事をたくさん見てきました。それは本当に残念なことでした。

 あれは2008年のこと。メモリアル・トーナメントの2日目、アメリカで国民的人気を誇るフィル・ミケルソンとスペイン人のセルジオ・ガルシアが同じ組で回っていました。彼らが15番ホールにやってきたとき、ロープの外から中年男性の大声が響き渡りました。それは、スペイン人のガルシアを侮辱する声でした。

 「アメリカはオマエが嫌いなんだよ、セルジオ」

 大観衆は水を打ったように静まり返り、周囲は凍り付いたようなムードに一変しました。ガルシアは自分のプレーが気に入らないと悪態を付くことが多かったのは事実。しかし、「アメリカはオマエが嫌い」というフレーズが差別的な意味合いを示していたことは明らかで、だから人々はみな凍り付いたのです。

中央を歩くセルジオ・ガルシアと後方左を歩くジム“ボーンズ”マッケイ(写真は2008年のメモリアル・トーナメント) 写真:Getty Images 

人種差別的な言動を「アメリカの恥」と言い切った「アメリカの勇気」

 ガルシア自身は、何も言い返さず、何も言い返せず、唇を噛み締めたまま無言で立ちすくんでいました。そのとき、アクションを起こしたのは、“ボーンズ”の愛称で知られるミケルソンのキャディーであるジム・マッケイでした。

 「今、言ったのは、誰だ?」すごい剣幕で怒声を上げたボーンズは、その場で野次を飛ばした男性を見つけ出し、その男性に大声でこう言ったのです。

 「誰に対しても尊敬の気持ちを持て。ゴルフの会場で、あんな言葉を吐くのはアメリカの恥だ」

 そう、人種差別的な言動はアメリカの恥です。しかし、誰もアクションが起こせなかった中で、ただ一人、即座に動いて「アメリカの恥」だと言い切ったキャディーのボーンズは、「アメリカの勇気」だと私は思いました。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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