ゴルフジャーナリストの舩越園子さんがPGAツアーを中心に長年のゴルフ取材中に見聞きしたこぼれ話を紹介します!今回は、2015年の全英オープンの時にジョーダン・スピースとダスティン・ジョンソンの猛ダッシュを見た舩越さんが感じたことです。
“ゴルフの聖地”の茂みをトイレ代わりにすることを許さなかった係員
「ゴルフの聖地」と呼ばれているセント・アンドリュースで開催された2015年の全英オープンを取材していたとき、私はビックリさせられる場面に遭遇しました。全英オープンは毎年7月。7月といえば夏ですが、スコットランドの海沿いのリンクスコースでは夏でも底冷えがする寒さです。そんな寒さの中で迎えた初日。私は日本の松山英樹の組のプレーを見守っていました。
同じ組で回っていたのは新鋭ジョーダン・スピースと屈指の飛ばし屋ダスティン・ジョンソン。5番ホールでティショットを打ち終わった直後、スピースがフェアウエイ右前方の大きな茂みへ向かって猛ダッシュし始め、ギャラリーはみな苦笑していました。そう、スピースはトイレに行きたくなったのです。
しかし、茂みのそばに立っていたセント・アンドリュースの係員は、「ゴルフの聖地」の茂みをトイレ代わりにすることを許さず、フェアウエイの逆側に見える小屋を指さしました。スピースは今度は逆方向の左側へ向かって猛ダッシュ。すると、それを見ていたジョンソンもフェアウエイ左側の小屋を目がけて猛ダッシュ。数分後、2人はすっきりした表情で戻ってきました。
過酷な環境の中で戦い続けるトッププロたち
ゴルフではスロープレーが禁じられています。迅速なプレー進行が求められる中、寒さのせいで何度もトイレに行きたくなるのに、なかなかトイレがない、トイレに行けないという状況は過酷です。
後半に入り、3人が13番のティショットを打ち終えて歩き出したそのとき、ティグラウンドの脇の仮設トイレにジョンソンと彼のキャディが同時に入ろうとしました。ジョンソンはキャディの背中を押してトイレに入らせ、自分は仮設トイレとその横の壁との隙間に立って用を足していました。ギャラリーからは、ぎりぎり見えない場所でした。
スピードアップに配慮しながらも、マナーにも配慮し、冷たい雨風や過酷な気候、さらには「出るものは出る」という自然の摂理とも戦い、そして難しい18ホールを戦い抜く。彼らの猛ダッシュには驚かされましたけど、ゴルフが自然との厳しい戦いであることを、あらためて教えられたシーンでした。
優勝すれば1億円以上の賞金を手にするトッププロたちは、陰ではそういう苦労もしています。優勝したとき、「すべての努力が報われた」と言って泣く選手は、きっとそういう苦労を思い出して泣くのだと思います。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)