いまやどんなスポーツでも、メンタル・トレーニングの意義は理解されていますが、その昔は、懐疑的な意見や精神的な病気の治療と勘違いする人が多かったといいます。今回は、舩越さんがアメリカで取材を始めた1990年代半ばごろのメンタル・トレーニングのお話です。
ゴルフ界でなかなか根付かなかったメンタル・トレーニング
今、思えば、アメリカのゴルフ界でメンタル・トレーニングが盛んになったのは、他のスポーツと比べると、遅かったのだと思います。私がアメリカツアーで取材を始めた1990年代の半ばごろ、デービス・ラブ3世が、「僕はメンタル・トレーニングを受け始めました」と公の場で語ったとき、アメリカのメディアたちは、みな首を傾げていました。
ラブは、スポーツ心理学者のボブ・ロッテラ博士の指導を受けていると言っていました。しかし、当時のゴルフ界では、スポーツ心理学者が一体どんなふうにプロゴルファーを指導するのかがほとんど知られておらず、中には、「ラブは精神的に問題があるわけじゃないはずなのに、なんでわざわざ?」と、メンタル・トレーニングを精神的な病気の治療と取り違えている人もいました。
メンタル・トレーニングを実際に体験して納得
もちろん私にとってもメンタル・トレーニングは未知の世界で、その実態を知りたくなった私は、ある日、メンタル・トレーニングのクリニックへ足を運び、実際に体験してみました。
「最近、ゴルフをしたとき、どんなミスをしましたか?」と尋ねられ、あれこれ話をしているうちに、そのメンタル・トレーナーは、「アナタは池越えやバンカー越えのショットで失敗することが多いんですね」と診断。そして、「そこに池はなく、地続きの、ただの地面が広がっている絵を心の中で描いて、その地面に向かってショットしてごらんなさい」と言ったのです。
心の中で描く絵は「メンタル・ピクチャー」と呼ぶそうで、「メンタル・ピクチャーを描いてから打てば、池越えは池越えではなくなります」と教えてくれました。
私はさっそく試してみました。いきなり全部がうまく行ったわけではありませんでしたけど、なんとなく以前より自信を持って打てる気がして、「なるほど、デービス・ラブは、こういうメンタル・トレーニングを受けているんだな」と納得することができました。
彼が全米プロを制し、メジャー優勝を果たしたのは、その翌年でした。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)