PGAツアーとLIVゴルフが和解したニュースが世界を駆け巡りましたが、PGAツアー側のローリー・マキロイの発言にも再び注目が集まっています。今回はLIV関連ではありませんが、マキロイが陥った「飛距離への誘惑」に関するお話です。
飛ばすことでデメリットを感じたマキロイ
アメリカのブライソン・デシャンボーがステーキディナーを1日6食、プロテインドリンクを1日6杯飲み、体重を1年半で40キロ以上増量し、飛距離を360ヤード、370ヤードと伸ばして2020年の全米オープンを制覇したことは、世界のゴルフ界では誰もが知るストーリーです。
そんなデシャンボーの驚異的なパワーに刺激され、メジャー4勝を誇る北アイルランドのローリー・マキロイも、2020年の秋ごろから飛距離アップのための筋力アップとスイング改造に取り組み、その結果、マキロイは成績不振に陥りました。
2021年3月には世界トップ10を割り込み、当時のマキロイは、「デシャンボーの飛距離を意識しすぎて、自分も飛距離アップしようと試みた結果、調子が狂った。もう僕はパワーの競い合いはしない」と路線変更を宣言。スイングコーチも変更し、従来の「らしさ」を取り戻す「再出発」の道を歩み始めました。
飛距離への誘惑には落とし穴もある
当時、マキロイのコーチを務めたピート・コーワンは、「マキロイのスイングは、モダンテクノロジーを駆使して開発された近代クラブに合っていない」と指摘していました。
そして、飛距離を伸ばすためではなく、近代クラブを効率的に振れるよう、マキロイのスイングを若干調整したら、2か月後のウエルスファーゴ選手権で2019年11月以来、1年半ぶりの復活優勝を果たすことができました。
飛距離が出ることが圧倒的に有利であることは疑いようもなく、飛距離追求はゴルファーの永遠のテーマです。そして、アスリートは挑んでこそ、アスリートなのかもしれません。
しかし、歴史を振り返れば、誘惑には往々にして落とし穴があります。
だからこそ、とりわけ今、ちょうど勢いづいている選手ほど気を付けてほしいと私は思います。「飛距離アップは、どうか慎重に!」
これは、すべてのゴルファーに当てはまる歴史の教訓なのではないでしょうか。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)