私たちメディアは、選手たちがどのような心境でプレーしているのかを想像しながら試合展開を追いかけます。今、そのときにどのような心の揺れがあるのか。それを想像する楽しさが、技術の進化で失われていかないことを願う。今回はそんなお話です。
アナログなリーダーボードが懐かしい
1950年代後半から60年代のアメリカのゴルフ界では、アーノルド・パーマーやゲーリー・プレーヤーらのプレーぶりはフィルムで撮影され、人々のお茶の間に届けられていました。
いつしか、それがビデオ撮影に変わり、大型クレーンや飛行船などを使いながらの広範撮影になり、スイングの細部まで見せてくれるスーパースローも採り入れられるなど、ゴルフ中継の技術はさまざまな進歩を遂げてきました。
試合会場に建てられるリーダーボードは、昔はすべてマニュアルでした。ボード上の数字を係員が入れ替えるたびに、ギャラリーは一斉に「オーッ!」と声を上げながら喜んだり落胆したりしていました。
しかし、リーダーボードの大半がデジタル表示に変わった現在は、そういうシーンは見られなくなり、今では選手たちのスコアや順位はスマホでリアルタイムでチェックできる時代です。
ゴルファーの心だけは神秘なままであって欲しい
アメリカツアーやマスターズの会場で3D映像が初めて導入されたのは2010年でした。臨場感たっぷりの立体映像は画期的な技術として注目を集め、マスターズのメディアセンターの傍らには「3D体験コーナー」が設けられていました、
何もかもが便利になった時代です。でも、ゴルファーの心の揺れが手に取るようにわかるマシーンだけは登場しないでほしいんです。
たとえば、2009年マスターズの最終日、当時48歳だったケニー・ペリーは、もしも自分が優勝したら、その勝利がもたらすであろう輝かしい自分の未来を思わず想像し、その瞬間、ショットが乱れ、惜敗したと言われています。心の動きがゴルフを動かすことは疑いようもありません。でも、その動きが目に見えないからこそ、ゴルフは神秘的で面白いのではないでしょうか。
だから、選手の心の中がはっきり見えるようなマシーンだけは、ゴルフの世界には登場しないでほしいんです。神秘は神秘のままベールに包んでおいてほしいと、私はずっと思っています。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)