7月には全英オープンが開催されますが、2021年大会を制したコリン・モリカワの勝ちっぷりは衝撃的でした。今回はコリン・モリカワのあるメンタルコントロールに関するお話です。
緊張をプラスエネルギーにする
コリン・モリカワは24歳の日系アメリカ人選手です。2019年にプロ転向しましたが、彼はアメリカツアーにデビュー後、わずか6試合目で初優勝を挙げて周囲を驚かせました。
>>リンクス経験が乏しかったコリン・モリカワが全英OPに勝てた理由
2020年は初出場した全米プロで、いきなりメジャー初優勝。そして2021年7月には、全英オープンでも初出場にして見事な勝利を飾り、世界中の注目を集めました。異なるメジャー2大会を初出場で初制覇することは、「タイガー・ウッズでさえ成し得なかった史上初の偉業達成」です。
メジャー優勝ににじり寄りながら、最後の最後に崩れて惜敗の涙を流した選手が、これまでどれほどいたことか。そんな過去のゴルフヒストリーを振り返れば振り返るほど、24歳の若さで初出場のメジャー大会を2つも制覇したモリカワの精神力の強さに驚かされます。
それにしても、彼は緊張で手足が震えたことはないのでしょうか。体が硬直した経験、手元がくるった経験はないのでしょうか。そんな疑問を感じていたら、モリカワのこんな声が聞こえてきました。
「もちろん緊張はする。でも、その緊張を自分自身を鼓舞するエネルギーに変えれば、怖いものなんて何もない状態になる」
なるほど。やっぱりモリカワも緊張はするのですね。でも、「うわ、緊張してる!どうしよう?」と動揺するのではなく、緊張していることを素直に受け入れ、「よし、この緊張を糧にするぞ!」と逆利用しているのです。
普通に考えればネガティブな要素も「来るなら来い!望むところだ、ウエルカム!」。その姿勢こそが、モリカワのメンタルコントロールの上手さの秘訣のようです。
気持ちをボールに伝えることが勝つための秘訣?
コリン・モリカワの武器は精度の高いアイアンショットですが、彼は小技の上手さにも定評があります。
全英オープンでは、ロイヤル・セントジョージズのグリーン上で難しいパットをポンポン沈め、世界のメディアから「モリカワの武器はアイアンとパットだ」と高く評されました。
しかし、モリカワ自身は、「僕はパットが上手いと言われているけど、統計的には大したものじゃない。でも、全英オープンでは、パットのたびに『入る』『入れられる』と信じて打った。そう、統計なんて気にする必要はない。問われているのは、自分がどんなプレーをするか。どんなゴルフをするかが大事なんだ」と言っていました。
そう言えば2011年大会の覇者ダレン・クラークは、優勝会見でこんな話をしていました。
「フェアウエイが硬いときは、ボールを早めに捕まえる打ち方をしようと思いながら打った。風が強いときは、風に流されない低い球を打ちたいと念じながら打った。逆風のときは、風に負けない強い球が欲しいと願いながら打った。そうやって僕は気持ちをボールに伝えるゴルフをした」
モリカワも、きっと気持ちをボールに伝え、「どうかカップに沈んでおくれ」と祈るような想いをボールに込めて打っていたのだと思います。
人と人との触れ合いにも、人生にも社会にも、ゴルフと同じことが当てはまるのではないでしょうか。どんな金銭や画策より、大事なのは気持ちです。その気持ちを自分の生き方に込めて日々を生きれば、きっと祈りは通じ、願いはかなうのではないか。
優勝トロフィーを掲げるモリカワの笑顔を眺めながら、私はそんなことを考えました。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)