ゴルフ界の王者タイガー・ウッズが交通事故を起こして重傷を負った出来事は、世界中を震撼させました。しかし、ウッズの命が助かったことは奇跡ですし、その後の回復には驚かされるばかりです。今回はそんなタイガーを支えた1人、キャディのジョー・ラカバのエピソードです。
時間通りに行ったらすでにサラダを食べていたタイガー
事故後に救急搬送され、緊急手術を受けたウッズを最初に見舞ったのは、ウッズの恋人と相棒キャディのジョー・ラカバの2人でした。
2011年からウッズのバッグを担ぎ始めたラカバが、ウッズと初めてディナーを共にした日の話は傑作でした。
「夕方5時半にレストランで会おう」とウッズから言われたラカバは、言われた通り、ぴったり5時半に約束のレストランへ行きました。
しかし、ウッズはすでに席に座ってステーキを注文し、先に出されたサラダを1人で食べていたそうです。ラカバに気付いたウッズは、「キミも好きなものをオーダーしていいよ」と優しい言葉をかけたのですが、決して顔をあげず、ひたすらサラダを食べ続けていました。
何も話さずに帰ってしまったタイガー
ラカバはメニューを眺める時間と手間を省いて、「僕も同じものをください」と慌てて注文しました。
しかし、ラカバのサラダが運ばれてくる前にウッズはステーキを食べ終わり、「じゃあ!」と一言だけ言って、さっさと帰ってしまいました。それが、ラカバがウッズに招かれて行った初めてのディナーでした。
「あの日のことは決して忘れない。タイガーが5時半と言ったらどんなに遅くとも5時15分までには現地へ行っておくべきだということを、あのとき僕は肝に銘じました」
ウッズが態度で示したことをラカバが察する。そうやって2人の間に信頼関係が生まれ、「あうんの呼吸」ができるようになっていったのです。
ウッズとラカバの奇妙なファーストディナーは、そういう関係を築き上げるためのファーストステップだったのです。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)