リンクス経験が乏しかったコリン・モリカワが全英OPに勝てた理由【舩越園子 ゴルフの泉】

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2021年全英オープンで初出場・初優勝を飾ったコリン・モリカワ 写真:Getty Images

2021年の全英オープンを制覇した米国人選手のコリン・モリカワは、初出場でいきなり優勝という快挙をやってのけたのですが、彼はイギリスの海沿いに広がるリンクスコースでプレーすること自体、まったくの不慣れでした。今回は、そんなコリン・モリカワが全英オープンに勝てた背景についてのお話です。

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経験不足をクリエイティビティで克服した

 全英オープン前週のスコティッシュオープンで初めてリンクスコースの特徴や難しさを体験したモリカワは、そのたった1試合での経験を生かし、翌週の全英オープンでは見事にリンクスコースを攻略しました。

 状況に応じて、どんなショットをどうやって打つべきかの判断を彼は即座に行なっていました。そして、思い描いた通りのショットを実際に実現し、ミスしたときは、そのミスをどうやって補うべきかを、やっぱり即座に考え出して実行していました。臨機応変な対応は、ゴルフの技術というより、創造力のたまものでした。

 「僕はクリエイティブなゴルフが求められる全英オープンが大好きだ」

 モリカワはそう言っていましたが、彼がクリエイティビティを身に付けたのはジュニア時代のことでした。

 ロサンゼルス郊外のグレンデールという町で生まれ育ったモリカワは、幼少時代から町の外れのチェビー・チェースというゴルフ場で腕を磨きました。そのゴルフ場は、いわゆる一流とか名門などと呼ばれるゴージャスなものではなく、その地域が所有運営するムニシパル、つまり公営のゴルフ場です。

 年齢や腕前に関わらず、地元のゴルファーたちが気軽にやってきてプレーする庶民のためのゴルフ場。しかし、18ホールではなく9ホールしかなく、練習場もなかったのだそうです。

 普通のゴルフ場にはあるものが、揃っていなかったそのゴルフ場で、モリカワはどうやってクリエイティブなゴルフを身に付けていったのでしょうか。それがとても気になりました。

9ホールだからこその自在な練習法

2022年ZOZO CHAMPIONSHIPでは家族のルーツがある日本でプレー 写真:JGTO images

 ロサンゼルス郊外のグレンデールという町で生まれ育ったコリン・モリカワは、幼少時代から町の外れのチェビー・チェースというゴルフ場で腕を磨きました。そのときのことを彼はこんなふうに語ってくれました。

 「そのゴルフ場は9ホールしかなくて、ドライビングレンジもなかったんだ。でも、あのゴルフ場は、練習場がないぶん、コース上で、好きなように練習していいぞと言ってくれて、乗用カートも無料で貸してくれたんです。だから、何を練習するにも僕はコース上で練習しました。1つのティグラウンドから、まずはストレート、次はドロー、次はフェードと言う具合に、いろんな種類のショットを10球ぐらい打ったり、1つのホールを何度も繰り返しプレーしたりしました。ほかのゴルフ場だったら、コースの上でそんな練習をすることは、まず許されない。でもチェビー・チェイスは、好きなように、コースを自在に使っていいよと言ってくれた。だから僕は、飛距離以外のすべてのことを、あのコース上で身に付けた。心の底から、感謝しています」

 なるほど。モリカワが行なってきた練習方法は、さまざまな状況を自分で想像し、その想像の世界を自力で戦うというクリエイティブな世界です。同時に、それはとても根気の要る忍耐の世界でもあります。

 そうやってモリカワが身に付けた創造性と忍耐力は素晴らしく、彼にそういう練習方法をオファーしたゴルフ場の寛大さに思わず頭が下がります。そして、そういう練習をしていたモリカワを文句も言わずに見守ってきた周囲のゴルファーたちの寛大さにも頭が下がります。

 モリカワが初出場した全英オープンでいきなり勝つことができた背景には、そうやって彼と彼の周囲の人々の間に築かれてきた優しく温かい関係があったのです。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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