ゴルフに限ったことではないですが、物語には必ず主役がいる代わりに脇役がいます。ただ、そんな脇役の選手には、常に脚光を浴びる主役級の選手とは違った魅力が詰まっていることを私は知っています。今回は、脇役に徹しながらPGAツアーを支えた選手のお話です。
2021年ライダーカップでは史上最年少チームをキャプテンとして牽引
2021年、米・欧のチーム対抗戦「ライダーカップ」の米国キャプテンを務めたスティーブ・ストリッカーは、見事に米国チームを勝利に導きました。そんな彼ですが、かつて「メジャーに強い男」と呼ばれた時期がありました。
1994年にアメリカツアーにデビューして、96年に初優勝を挙げたストリッカーは、1998年以降、メジャー4大会で頻繁に優勝争いに絡みました。しかし、毎回惜敗に終わり、2003年ごろからは成績が急降下しました。2004年にはシード落ち。2005年の冬は深刻なスランプに陥っていました。
スポンサーも離れ、いろんなものを失ったストリッカーは、起死回生を心に誓い、故郷ウイスコンシン州の大雪の中、1人で練習場に向かいました。
吹雪が吹き付ける中、打席からはボールを打つことができず、彼は知人から借りたトレイラーを打席の近くに停め、その中から何時間もボールを打ち続けていたそうです。
闇夜に光る月として活躍し続けたストリッカー
その努力が実り、2006年には成績が急上昇してカムバック・プレーヤー・オブ・ザ・イヤーを受賞。完全復活を遂げた2007年にも、2年連続でカムバック・プレーヤー・オブ・ザ・イヤーに輝き、世界トップ5まで上昇しました。
「ここまで来たら世界一になりたい?」と尋ねたら、彼は「いやいや、僕はこのツアーに居られるだけで幸せだ。タイガー・ウッズが太陽なら、僕は闇夜に光る月でいい」と静かに答えました。
勝負師たるもの、常に高い志を頂くべきかもしれません。でも、真冬の雪の冷たさを嫌と言うほど味わったストリッカーにとっては、雪さえ回避できればいい、地を這うのではなく空に昇ることさえできればいいと感じられていたのかもしれません。だから彼が太陽ではなく月を望むなら、月なら月で、どうか最高の満月になってほしいと思いました。
春の夜空に映える満月はきっと美しいに違いない。そんなことを思ったことが、遠い昔にありました。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)