最愛の母の愛に支えられたクリス・ディマルコ“奇跡の戦い”【舩越園子 ゴルフの泉】

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メジャー大会で優勝争いの常連だったクリス・ディマルコ 写真:Getty Images

メジャー大会で優勝した選手がスポットライトを浴びることは、いわば当たり前ですが、メジャー大会で惜敗して注目を浴びるケースも稀にあります。今回はそんな選手の一人でもあるクリス・ディマルコのちょっと不思議な力を感じるお話です。

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度重なる惜敗に実は苦しんでいたディマルコ

 2005年のマスターズでタイガー・ウッズと熱い一騎打ちを演じた末にプレーオフで敗れたクリス・ディマルコは、当時、無敵の王者だったウッズに臆することなく、堂々と渡り合った勇敢な戦士として、大会直後から異常なほどの人気を集めました。

 ディマルコ自身は「終わったことは忘れて前へ進みたい」と言っていたのですが、彼にとって、あの惜敗を忘れることは簡単ではありませんでした。

 というのも、ディマルコは、その前年のマスターズでも優勝争いに絡み、6位タイに終わりました。その年の夏、全米プロでも優勝争いに絡みましたが、プレーオフで敗れ、2位に甘んじました。そして翌年、あの2005年のマスターズでディマルコはウッズに敗れたのです。

 度重なる惜敗の悔しさは、「忘れたい」という言葉とは裏腹に、彼の胸の中でどんどん積もっていきました。

 ウッズに敗れたマスターズから3か月後。ディマルコの最愛の母ノーマが亡くなりました。惜敗の悔しさと母親を失った悲しみを抱えたまま、ディマルコは全英オープンに出場。そして彼が初日の1番ティにやってきたとき、不思議なことが起こりました。

 ディマルコの組の選手たちのスコアの記録係の女性にディマルコが近寄って挨拶すると、その女性はにっこり笑って「私の名前はノーマです。よろしくね」と挨拶を返したのです。 「母と同じ名前だ。これは神様の引き合わせだ。母が一緒にいてくれるんだ」と感じ、不思議な力を実感したディマルコは、このあと、さらに不思議な偶然と巡り会うことになります。

2005年マスターズではタイガー・ウッズと一騎打ちの末、惜しくも2位 写真:Getty Images

またしても勝者はタイガー。それでもディマルコの表情は明るかった!

 「これは神様の引き合わせだ」と感じたディマルコの体内には不思議な力がみなぎり、そのおかげで彼はまたしても優勝戦線に浮上。最終日を2位タイで迎えたディマルコが追うべき選手は、またしても王者タイガーでした。

 わずか3か月前、ディマルコはマスターズでウッズに敗れたばかり。そして、ディマルコが最愛の母親を失ったばかりだった一方で、ウッズもその2か月前に最愛の父アールを失っていました。そんな2人が4月のマスターズに続き、7月の全英オープンでも優勝争いを演じたことは、本当に不思議な巡り合わせでした。

 勝利したウッズはウイニングパットを沈めた途端、キャディの胸で少年のよう泣きじゃくり、「父の姿はここにはないけど、ずっと父がそばにいると思ってプレーした」と語りました。

 「母が一緒にいてくれる」と感じながら戦ったディマルコは、残念ながら、またしても惜敗しました。しかし、一番不思議だったのは、そんなディマルコの表情がとても穏やかだったことでした。

 「いいプレーができたと実感できる今の気分は悪くない。勝てなくても、いい優勝争いができたことを、僕は誇りに思う」。

 本当はとても苦いはずの惜敗の味を、オブラートに包んでマイルドな味に変え、ディマルコを微笑ませてくれたのは、天国へ逝った彼の母親ノーマの優しい計らいだったのではないか。私はあのとき、そう思いました。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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