春に行われるゴルフの祭典・マスターズといえば美しい花々が印象的ですが、今回はそんなマスターズで花が咲かなかった珍事についてのお話です。
美しい花々はマスターズに合わせて人為的に咲かせているという噂も!
毎年4月にアメリカのオーガスタ・ナショナルで開催される「ゴルフの祭典」マスターズといえば、アゼリアやドッグウッドの花々が赤や白、ピンク色に咲き揃い、オーガスタ・ナショナルが美しく彩られることで知られています。その美しい光景こそが「オーガスタの春だ」とも言われています。
その花々は、オーガスタ・ナショナルがマスターズ・ウィークにちょうど開花するように人為的にコントロールしている説もあるのですが、オーガスタ・ナショナルは手の内を明かしたりはしないので、真偽のほどはわからず、そのあたりのことは、今でもベールに包まれたままです。
しかし、たとえ気温や水温、水の量などをあれこれ調整し、シートをかけたり外したりして、どんなにコントロールしたとしても、やっぱり大自然の力には勝てない面があるのでしょう。
2012年大会のときは、マスターズ・ウィークに花々がほぼ皆無となり、視界に入って来たのは、芝の緑色とバンカーの砂の白さばかり。その姿は、例年のオーガスタ・ナショナルとは大きく異なって感じられました。
「なんだか寂しいなあ」と、ちょっぴりがっかりしながら開幕前の取材を進め、クラブハウス前のベンチに座って一休みしていたら、オーがスタ・ナショナルのメンバーの象徴であるグリーンのジャケットに身を包んだ高齢の紳士が私の隣に座りました。
そして、その紳士は、まるで私の胸の中を見透かしているかのように、「今年は花々の開花が1か月も早かったからね」と静かに語りかけてきました。
「アゼリアもドッグウッドも咲いていなくて、淋しい春ですね」と私が答えると、その紳士 は首を横に振り、とても興味深いことを話し始めました。
花が咲かないマスターズもまた違った楽しみ方がある
いつもとは異なるその様子にちょっぴり落胆していた私がクラブハウス前のベンチで一休みしていたら、グリーンジャケットを羽織ったオーガスタ・ナショナルのメンバーである高齢の紳士が話しかけていた内容になるほどと感心しました。
「今年は開花が1か月も早かったからね。でも、花が早く咲いた分、木々にはすでに実がなり始めている。このオーガスタ・ナショナルの土地は、元々は果樹園でしたから、この土地には今でもいろんなフルールの木々があるんです。あなたはメディアの一員ですね。取材でコースを歩くときに、木々に目をやり、木の実を探してごらんなさい。きっと春が感じられますよ」
その紳士の言葉に、なるほどと頷かされました。春夏秋冬。季節は巡るものです。春は勝手に一人歩きするわけではなく、冬から春へ、春から夏へと移ろいでいきます。少しばかり暖かすぎた冬は、早すぎる春をもたらすこともあり、それが開花や結実の時期にいたずらを仕掛けることもあります。でも、冬から春へ、春から夏へ、花から実へとタスキをつなぐリレーは、ちゃんと連なっているのです。
だから、目の前に花が無ければ、実を探せばいい。花も実もなければ、次の開花と結実を、たまには気長に待ってみればいい。そう、季節のリレーがある限り、必ず春はあるのです。
なるほど。春は必ずやってくる。春はどこかに必ずある。そう思ったら、急に元気が出て、木の実を探しにコースの奥へ奥へと歩いて行ったことを、懐かしく思い出しました。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)