ゴルフの世界でもダイバーシティが進んでいる昨今、選手の中には、自分自身のアイデンティティを見い出したり、確立したりすることに、苦労するケースも見られます。今回は、ある選手のアイデンティティに関するお話です。
母国を離れたレアードは邪道だと言われた
2011年のアーノルド・パーマー招待で、スコットランド出身のマーティン・レアードという選手が単独首位で最終日を迎えていました。その場に居合わせたイギリス人の記者に母国でのレアードの知名度を尋ねてみると、意外な言葉が帰ってきました。
「スコットランドで有名なのはサンディ・ライルとコリン・モンゴメリーだけ。レアードはアイデンティティがないと言われている」。
そのワケは、レアードが17歳で母国を離れてアメリカの大学へ留学し、以後もアメリカツアーに出続けているからだそうです。アメリカ的なアクセントが混じる彼の英語も、頑固なイギリス人から見ると邪道なのだそうです。
誰になんと言われようと母国愛を貫き通したレアード
しかし、レアード本人は、「アメリカにいるけど僕はスコットランド人だ。優勝してスコットランド人選手の強さと誇りをアメリカの大地の上で示したい」と語りました。
ゴルフバッグにはスコットランドの旗。パターのグリップは旗の色にちなんだブルー。旗のデザインが施されたバックル付きのベルトを締め、最終日は旗の色づかいと同じブルーと白のウエア。彼は全身でスコットランドを主張していました。
サンデーアフタヌーンは接戦でしたが、最後に長いパットをきっちり2つで沈め、通算2勝目を挙げて、何度も何度もこぶしを握り締めました。
表彰式が終わるころ、18番グリーン脇から歌声が聞こえてきました。その場に居合わせたスコットランド人、たった5人の小さな輪によるスコットランド民謡の合唱は、「レアードのアイデンティティ、ここにあり」と言っているかのようでした。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)