PGAツアーには個性的な選手が数多くいますが、実際に話を聞いてみてその人に対する印象がガラリと変わることもあります。今回は、舩越さんの長い取材生活の中でも、記憶に残る、気になる存在だったバッバ・ワトソンのお話です。
バッバ・ワトソンが急激に強くなった理由
アメリカツアー未勝利だったバッバ・ワトソンが、「肺がんと診断された父親の命があるうちに自分の雄姿を見せたい」と語り、それからわずか3週間後にトラベラーズ選手権を制して初優勝を挙げたのは、2010年の夏でした。
勝利して自信を膨らませたワトソンは、その年、メジャー大会の全米プロでは優勝争いに絡んで2位となり、米欧対抗戦のライダーカップにも出場しました。
病床にあったワトソンの父親は、そんな息子の活躍を目にした直後に残念ながら他界してしまいましたが、悲しみを乗り越えたワトソンは一層強くなり、翌年には年間2勝を達成。どうして、こんなに強くなったのか。その秘密を尋ねたい一心でワトソンと向き合い、1対1のインタビューをしました。
ワトソンいわく、「僕は何でも自分で学ぶタイプ。なんでも失敗から学ぶので、失敗するまでは進歩もない。要するに、ほかの選手たちより何をするにも時間がかかるんだ。だから、初優勝するまでに、僕には5年の歳月が必要だったんだ」と、振り返ってくれました。
全て独学で身につけたスーパーテクニック
ゴルフの練習は、コーチを付けず、ずっと自己流で取り組んできたのだと話してくれました。
「僕は6歳のときに父から基本だけは教わったけど、それからは、いつも自宅の庭で1人で練習していました。庭には樹齢100年ぐらいの大木があり、僕はその大木の枝の上を超える高い球、下を抜く低い球、左右へ曲げてかわすドローやフェードという具合に、弾道を打ち分けることを覚えたんだ。広大な庭だったわけではなく、本物のゴルフボールを打つのは危険だったから、フワフワの飛ばないおもちゃのボールを打っていたんだけど、そういうボールのほうが本物のゴルフボールより打ち分けるのはむしろ難しい。だから逆にそれがいい練習になりました」
幼少期のそんな秘話を聞いたとき、私はワトソンにとても興味を引かれ、アメリカツアーで一番気になる存在になったのです。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)