人生では、「知らないままのほうがいいこと」が結構ありますよね。今回は、石川遼選手がアメリカPGAツアーに挑戦していた時に聞いたお話です。
苦戦続きだった石川遼のアメリカツアー挑戦
2013年の秋のことでした。アメリカツアーの正式メンバーになって2年目を迎えていた石川遼選手が、Shriners Hospitals for Children Openという大会で2位になりました。しかし、石川選手は2位を喜ぶより、むしろ攻めきれなかった上がりのプレーが「情けない。くやしい」と唇を噛み締めていました。
その前年は終盤に予選落ちが続き、シード落ちの危機に瀕しました。なんとか敗者復活戦で生き残ったものの、2013年も苦戦が続いていました。
アメリカで聞いた石川遼の言葉の意味
日本では次々に勝利を重ねて輝いていた石川ですが、アメリカで戦うようになってからは、腰痛悪化で練習ができず、予選落ちが続いて成績低迷。
日本で輝いていたころとは「何がどう違うと思いますか?」と、石川選手に単刀直入に尋ねてみました。すると、彼はこう答えたのです。
「2009年に日本で賞金王になったとき。日本で3勝、4勝を挙げたいたとき。今はもう、あのときの精神状態ではやれないんです。今思えば、日本でガンガン勝っていたころは、知らないことが多すぎました。フェアウエイの左右両サイドにOBがあっても、ドライバーで打ち終わるまで、左右両方にOBがあることを知らなかった、、、みたいな感じだった。僕はまだ高校2、3年だったから、日本でそういう感じでやっていて、たまたまうまくいった。そして、初優勝目指して勇んでアメリカに来たけど、あれから時間が経って、いろいろ苦しい時期があって、今はメンタル的にリカバリーできているのかな」
とても素直に正直に、そして冷静に振り返ってくれた石川選手の言葉が心に沁みました。
「左右両サイドにOBがあることを知らずにドライバーを振り回した」というのは、人生に落とし穴があることを知らずに突進することの例えでもあると思いました。それは決して悪いことではないのだろうし、若いときには怖いモノ知らずで挑む勇気やチャレンジ精神も必要でしょう。
でも、後々それを振り返ったとき、自分は「若かった」「未熟だった」と気づくことは、賢い大人になった証であると同時に、どこかこじんまりしてしまうようにも感じられ、一抹の寂しさを覚えました。
「ゴルフでも人生でも、OBがあることを、ずっと知らないままでいられたらいいのに」。そう思いたくなった瞬間でした。
やっぱりゴルフと人生は、よく似ている。石川選手を取材しながら、あのとき私はそんなことを感じていました。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)