『ASO飯塚チャレンジドゴルフトーナメント2023』で、プロ初優勝を飾った中島啓太。優勝の瞬間は涙が溢れていましたが、彼が涙もろいことは有名な話。今回は、そんな彼の優しさと強さに関するお話です。
自分なりに自分流を築き上げた中島啓太
プロゴルファーを目指すジュニアやプロ予備軍、あるいは若いプロゴルファーたちは、先輩プロたちの何かを真似ながら、成長していくものです。
真似る内容は、構え方やスイング、グリップの仕方、グリーンの読み方、コースの攻め方といったプレーそのものに関するものもあれば、ガッツポーズの取り方や勝負カラーを身に付けるといった自分流のスタイルの作り方だったりもします。
スピーチやファンサービス、サインの仕方など、プレーとは直接関係のない何かを見て、「すごい」「自分もあんなふうになりたい」と憧れて真似ることも少なくありません。
そうやって、「これは」と直感した「何か」を真似して自分のものに変えていくプロセスは、往々にして根気のいる地道な作業になるものですが、その作業をコツコツやり通したその先で、身に付けた「らしさ」が大きく花開くのです。
涙もろさはゴルフへの熱い想いへの裏返し
2021年の『パナソニックオープン』でプロたちを抑えて勝利した中島啓太も、ポーカーフェースのプレースタイルや堂々とした歩き方を先輩プロを見て学び取り、実践しています。
意外なことに、プレー中はポーカーフェースの中島の素顔はクールとは正反対で、「僕、結構、涙もろいんです」。うれしいときも悔しいときも泣く。「家に帰って泣くこともあります」。
2021年4月に先輩、金谷拓実に1打差で敗れ、2位に甘んじたときは、「グリーンを降りて、すぐ泣きました」。
その金谷がプロ転向を発表したときでさえ、「僕は車を運転していたんですけど、金谷さんのプロ転向表明を聞いて、淋しくなって運転しながら泣いてました」。
また、2021年の全米アマで80を叩いて敗退し「心が折れた」ときは、さぞかし泣いたことでしょう。
しかし、どんなときも、戦いの舞台に上がれば、ポーカーフェースで堂々と歩き、堂々とプレーする。そんな中島の取り組みが、パナソニックオープン優勝につながり、そして今回のプロ初優勝で本当のスタート地点に立った。中島の“らしさ”が、これからもっと大きく花開くと私は思っています。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)