選手にとってキャディは単なるバッグを運び、残り距離を教えてくれるだけの存在ではありません。個人スポーツであるゴルフにおいてキャディは唯一、アドバイスを求められる存在。今回は、そんなプロキャディと選手の関係に関するお話です。
一喜一憂しない早藤キャディに支えられた松山英樹
松山英樹がマスターズで優勝したとき、松山選手のバッグを担いでいた早藤将太キャディはアメリカ人記者から、「優勝争いの真っ只中、どんな言葉を投げかけて松山のメンタル面をコントロールしたのですか?」と尋ねられ、「会話の内容は何も覚えていないんです。ただキャディとして求められることを、いつも通りにやろうとしていただけです」と答えていました。
なるほど。早藤キャディのそういう姿勢が松山選手の平常心を保つことにつながったのでしょう。
早藤キャディは「覚えていない」と言っていましたが、きっと松山選手と早藤キャディのやり取りが、普段通りのトーン、普段通りの雰囲気で交わされていたからこそ、それが究極の緊張状態にあった松山選手の心を和らげ、笑顔さえ引き出していたのではないでしょうか。
アプローチ勝負でタイガーを負かしたラカバの誤算!?
ところで、当時4度目の腰の手術を受けて戦線離脱していたタイガー・ウッズが2019年の『マスターズ』を制し、11年ぶりのメジャー優勝を成し遂げた背景にも、キャディの存在がありました。
ウッズのバッグを担ぐ相棒キャディのジョー・ラカバは、ウッズがドクターから練習開始の許可をもらった直後から、ウッズの練習を体を張って支えてきました。
ウッズの自宅の裏庭の練習場で、ウッズとラカバはチップ&パットの小技合戦を何度も行ない、もちろんいつもウッズが勝っていたのですが、ある日、ラカバに負けてしまったのです。
ウッズは悔しさのあまり、その日だけは、いつも夕食前にラカバに送っていた「ディナーの用意ができたから、おいで!」というメールを送らず。夜になるまでずっとウッズからのメールを待っていたラカバは、仕方なく真夜中にホテルのそばでハンバーガーを買って1人でひっそり食べたのだそうです。
まるで兄弟げんかみたいな話ですが、ウッズとラカバは、そんなことも経験しながら信頼関係を築いていったのです。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)