2021年の東京五輪で金メダルを獲得したザンダー・シャウフェレですが、彼のメダルへの思いに感心させられたことを覚えています。今回はそんなシャウフェレに関するお話です。
とにかくメダルを獲りたかった純粋な思い
東京五輪男子ゴルフで金メダルに輝いたアメリカのザンダー・シャウフェレは、第2ラウンドを終えて単独首位に立ったとき、こんな言葉を口にしました。
>>東京五輪の裏側 メダルが欲しかったシャウフェレと勝ちたかった松山英樹
「メダルの色に関わらず、僕はなんとしてもメダルを獲りたい」
それを聞いた瞬間、私が思い浮かべたのは、遠い昔に絵本で読んだ「金の斧、銀の斧」というイソップの寓話でした。
正直な木こりが自分の斧を川に落としてしまって途方に暮れていたら、川の中から金の斧を手にした神様が現れ、「これは、あなたの斧ですか?」と尋ねる。木こりは「いいえ、私の斧はそんなに立派な斧ではありません」。今度は神様が銀の斧を見せると、木こりは「私の斧はそんなにキレイな斧ではありません」。
すると、神様は木こりの正直さを讃え、木こりに金の斧を授けるというお話です。
第二の故郷でメダルを獲りたかったシャウフェレの想い
五輪のメダル獲得に求められるものは、正直だけではもちろんありません。でも、何色であってもメダルを獲りたいと言ったシャウフェレの謙虚なひたむきさは、最終的にはイソップ寓話の根底にある、まっすぐで真摯な想いと通じるように思えてなりませんでした。
シャウフェレの父親はドイツとフランスのハーフで、かつては陸上十種競技の選手として五輪出場を目指していました。しかし、1986年大会の直前に交通事故に遭い、左目を損傷。五輪出場は幻と化してしまいました。
シャウフェレの母親は台湾で生まれ、日本で育ちました。流暢な日本語を話し、気さくで気取らない彼女の謙虚な人柄は、そのまま息子のシャウフェレに引き継がれています。
父親の果たせなかった夢を引き継ぎ、母が育った第二の故郷で五輪のメダルを獲りたい。
そんな強い想いを抱きながら、「何色でも構わないから」と言ったシャウフェレの謙虚な姿勢が、勝負の神様、五輪の神様に届いたからこそ、彼は金色のメダルを授かったのだと私は信じています。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)