東京オリンピックのゴルフ競技は開幕前から、米国代表で400ヤード級の飛距離を誇るブライソン・デシャンボーが出国直前のPCR検査で陽性となり、急きょ欠場が決まると、その数時間後にスペイン代表のジョン・ラームも陽性判定を受け、欠場を余儀なくされるなど、さまざまな波乱が起きました。今回は、東京五輪で感じた摩訶不思議な出来事についてのお話です。
自衛隊がゴルフのトーナメント会場に入ることは稀
ゴルフの世界では、しばしば不思議なことが起こります。しかし、五輪ゴルフの会場、霞が関カンツリー倶楽部では、「不思議だ」「わからない」では片づけられない重要な任務を遂行している人々が、あちらこちらに詰めていました。
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近隣の警察署から派遣されている警察官は、コース内の巡回や安全確認、警備を行なっていました。消防署員は傷病者への救急対応はもちろんのこと、安全対策や危険物取り扱いにも対応していました、
しかし、迷彩柄のユニフォームに身を包んだ陸上自衛隊の姿をゴルフの大会会場で目にしたのは初めてのことで、その存在がとても興味深く感じられました。
日ごろ、日本のゴルフトーナメントの大会運営に携わっている担当者によれば、「警察や消防の方々に会場内に入っていただくことはありますが、これまで自衛隊が会場に入ったことは無いです」とのこと。へーっと驚いた私は、さっそく陸上自衛隊の取材を始めました。
当たり前だが迷彩柄禁止のクラブ規則は適用されなかった
東京オリンピックのゴルフの会場となった霞が関カンツリー倶楽部で、迷彩柄のユニフォームに身を包んだ陸上自衛隊の姿を目にしたときは、少々ビックリさせられました。
どうやら、通常のプロゴルフの大会は「民営」ですが、五輪は国家プロジェクトゆえに、政府主導で自衛隊の出動や稼働をお願いできるということのようです。
そんな難しい事情はさておき、ゴルフトーナメントの会場で初めて目にした自衛隊の方々は、どんな仕事を受け持ち、何を感じているのかが気になりました。
会場内には、大会関係者や私たちメディアが通るセキュリティゲートがあり、そこでクレデンシャルや荷物のチェックを行なっていたのは、栃木県内の駐屯地からやってきた自衛隊員たちでした。24時間体制で入場ゲートのチェックを受け持つ彼らの究極の任務はテロ対策。とはいえ、「大きな事件は今のところは皆無です。ゴルフの選手ですか?松山英樹だけは知っています。私たちも人間なので選手の姿をちらっとでも見たいとは思いますが、持ち場を離れるわけにはいきません」と、高いプロ意識を見せてくれました。
そうやって任務に勤しむ自衛隊員の迷彩服姿がとても新鮮に感じられ、その一方で、妙なことを思い出しました。
日本の名門ゴルフ場の中には迷彩柄のウエアを禁じているところが多く、霞が関のドレスコードを見ると、やはり迷彩柄のデザインは「着用をお断りいたします」と記されています。その霞が関の警備を迷彩服の自衛隊員が受け持っているという妙な取り合わせが、ちょっぴり皮肉めいた不思議に感じられ、「ああ、やっぱり何が起こるかわからないのがゴルフだなあ」と私は1人ひそかに呟きました。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)