スポーツマンシップにのっとれば相手に敬意を払うことは当たり前のことですが、それは意外と簡単にはできないものです。今回は、意識せずにそれが身についているケビン・ナという素晴らしいプレーヤーのお話です。
アジア人初の快挙を自分のことのように喜んだケビン・ナ
2021年にマスターズを制した松山英樹が18番グリーンからクラブハウスへ向かって歩いていったとき、松山選手のトレーナーやマネージャーなどチーム松山の面々が次々に祝福のハグをしていましたが、そのとき1人だけ「あれっ?」と思う人物が混じっていて、ちょっぴり驚かされました。
それは、韓国生まれのアメリカ人、ケビン・ナというアメリカツアーの選手でした。
彼自身もマスターズで戦い、すでにオーガスタ・ナショナルから去って車を運転していたそうですが、松山選手が優勝ににじり寄っていることを知り、「アジア人初のマスターズ制覇を祝福せずにはいられない」と感じてオーガスタ・ナショナルへ大急ぎで引き返し、松山選手が勝利する瞬間をドキドキしながら待っていたのです。
ケビン・ナが口にした心からのおめでとう
そう言えば、2014年に松山選手がメモリアル・トーナメントを制してアメリカツアー初優勝を挙げたとき、プレーオフを戦った対戦相手は、そのケビン・ナでした。
ウイニングパットを沈めた松山選手の方へ近づいていった私は、敗北してグリーンから去ろうとしていたナとすれ違いました。
「ああ、ケビンがこっちに来るな」と思った私は、ちょっと気まずくて、彼になんて声を掛けたらいいだろうかと迷っていました。
でも彼は、「おめでとう。ジャパニーズ・メディアのアナタにとっても、いい結果でしたね」と、彼のほうから声を掛けてきたのです。
悔しさの真っ只中で、笑顔さえたたえながら私にそう言った彼に、私は尊敬の念さえ抱きました。そして咄嗟に、こう返しました。「サンキュー、ケビン。次はきっと、あなたの番が来ます!」
この出来事以来、私は彼が優勝争いに絡むたびに、「ケビン、勝って!勝って!」と秘かに念じるようになりました。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)