意外にも距離のジャッジができないレクシー・トンプソンの強さの秘密【舩越園子 ゴルフの泉】

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LPGAツアー11勝を誇るレクシー・トンプソン 写真:Getty Images

2011年にアメリカの女子ツアー史上最年少の16歳で初優勝を挙げたレクシー・トンプソン。今回は、そんな彼女のキャディにまつわるお話です。

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キャディへの依存度が高いトンプソンのプレースタイル

 2014年にクラフト・ナビスコ選手権を制覇してメジャー・チャンピオンになったレクシー・トンプソン。その後も次々に勝利を重ね、今では通算11勝を誇るベテラン選手です。

 しかし、2019年以降は、優勝争いに絡みながらも最終日に崩れるケースが目立ち、勝利からは遠ざかっています。そんなトンプソンに必ずと言っていいほど伴っているのが、彼女の相棒キャディに関するストーリーです。

 そもそもトンプソンはキャディへの依存度がきわめて高い選手です。「私、ヤーデージブックは持たないので」と言い切る彼女は、距離にまつわるすべての情報をキャディに頼り切ってプレーしているのです。

 その一方で、彼女の相棒キャディは次々に変わっていきます。弟や父親がバッグを担いだこともありました。その合間の一時期に彼女の相棒を務めたのは、2021年の全英女子オープンを制覇したスウェーデンのアンナ・ノルドクビストの夫、ケビン・マカルパインでした。

 2021年6月の全米女子オープンでは、笹生優花と畑岡奈紗がプレーオフにもつれ込み、笹生が勝利しましたが、あの最終日、首位を走っていたのは実を言えばトンプソンでした。

 しかし、彼女は終盤にガラガラと崩れ落ち、優勝争いから脱落。あのとき彼女のキャディを務めていたのは、アメリカ男子ツアーで活躍するブライソン・デシャンボーの当時のキャディ、ティム・タッカーでした。

 その年の8月、東京オリンピック女子ゴルフの3日目の出来事です。終盤にトンプソンのキャディが熱中症で突然リタイアすることになりました。キャディがいなければ、距離が全然わからない彼女は一瞬、茫然となって立ち尽くし、そこから先はてんやわんやの展開になっていきました。

2022年全米女子プロゴルフ選手権では2位タイ 写真:Getty Images

自力では距離の判断ができないと告白

 トンプソンは距離に関するすべての情報をキャディに100%依存している選手。「私はティグラウンドの看板の数字を見て、『だいたい何ヤードぐらいかな』と思う以外には、ヤーデージがわからないんです」。

 東京オリンピックでは結局、3日目の上がり3ホールと最終日は、その場に居合わせたツアーやテレビ関係者がバッグを担ぎましたが、臨時キャディではバッグを担ぐのが精一杯で、トンプソンは33位に終わりました。

 オリンピック終了後、トンプソンは熱中症で倒れたキャディをすぐに解雇し、次なる全英女子オープンではスコットランドの地元キャディ、ポール・ドラモンドを付けました。

 「ポールはコースを熟知しているし、距離のアドバイスもグリーンの読みも全部優秀。大きな助けになっています」と、満面の笑顔で語ったトンプソンは、初日から好プレーを続け、首位から2打差の4位タイで最終日を迎えました。

 今度こそ、2年ぶりの復活優勝かと周囲は期待を膨らませ、「今度こそ、相棒キャディがポールで定着するのではないか?」という予想もされていました。しかし、彼女はまたしても最終日に崩れ、無言で去っていきました。

 自力では距離の判断が全然できないと明かしてしまうあたりは、もはや驚きを越えて感心さえさせられます。その反面、「私がキャディに尋ねるのはピンまでの距離と落としどころだけなの」と、キャディへの依存部分はきわめて少ないかのごとく語るトンプソンという選手の哲学は、なかなか難解で、だからこそ興味も沸きます。

 キャディには、どこまで何を頼るのが得策か。選手とキャディの蜜月は、長い短い、どちらのほうが有効か。その答えは、これからの彼女の活躍が教えてくれると思います。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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