2021年のマスターズを制した松山英樹選手ですが、それ以前にも実は勝つチャンスがありました。ただ、そんな試練があったからこその2021年の優勝だったのではないでしょうか。今回は、松山選手が経験した試練のお話です。
首位のスピースが崩れたチャンスを逃した松山英樹
2015年のマスターズ覇者、ジョーダン・スピースが2連覇に挑んだ2016年マスターズは、スピースが後半に崩れたことで、勝利はダニー・ウィレットというイギリス人に転がり込む結果になりました。
>>マスターズ優勝のグリーンジャケットを自由に着られるのはたった1年だけ
そう、2016年マスターズは「スピースが勝ちかけて負けた大会」です。しかし、実を言うと、あのマスターズは「松山英樹が優勝のチャンスを逃した大会」でもありました。
松山選手のそれまでのマスターズでの最高成績は、2015年の5位でした。でも、2016年大会は、一時的ではあっても、彼がそれ以上に優勝ににじり寄った大会だったのです。
あの最終日、スピースがバック9で崩れ始めたことは、スピースに追撃をかけていた松山選手に、優勝できる大きな可能性をもたらしました。
しかし、松山選手は13番、14番、15番の肝心のパットを、どれも沈めることができず、せっかく訪れた絶好のチャンスをみすみす逃す格好になり、7位タイに終わったのです。
メジャーに勝つための精神的な強さの必要性
ホールアウト後、日本メディアの前に立った松山選手は、胸の中の想いをどうにかこうにか言葉に替えようとしていました。最初に崩れかけた前半の4番、5番、6番が「精神的にきつかった」と彼は声を震わせました。
日ごろ、弱音を吐かない松山選手が、大勢のメディアの前で口にした「きつかった」という一言は、祭りの後のオーガスタの静けさに響き渡りました。
大舞台での優勝争いの真っ只中で、崩れかけたときの焦りや恐怖は、どんなものなのか。本当は声を上げて泣き出したいほど「きつかった」のだろうと思います。しかし彼は、そのきつさ、苦しさに耐えながら戦い続け、なんとか7位タイになりました。
そういう試練を乗り越えてきたことが、2021年、松山選手に悲願のマスターズ初優勝をもたらしたのだと私は思っています。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)