悪気がなくてもちょっとしたことがきっかけで調子を崩してしまうことがゴルフには多々あります。今回は、マスターズという大舞台で起きた、悔しくも、ちょっとあたたかい気持ちになるお話です。
マスターズという特別な舞台だからこそ起きたハプニング
2021年のマスターズを松山英樹が制し、日本人初、アジア人初のマスターズ・チャンピオンが誕生したことで、日本でのマスターズという大会への注目はこれまで以上に高まりました。
マスターズは出場できるだけでも名誉だと言われるほどハードルが高いメジャー大会。優秀な選手ばかりが集うこの舞台で活躍することはとても難しく、ましてや、そこで勝利を挙げるためのハードルは果てしなく高い大会です。
とりわけ初出場の選手や若い選手は、気持ちが前のめりになりすぎることが多く、逆に、ちょっとした出来事に心を乱されたり、気持ちが不安定になったり。そうやってメンタル面から崩れていった選手を、これまで何度も目にしました。
あれは2013年マスターズ3日目のこと。最終組で回っていたのは、1992年マスターズ覇者で当時53歳のフレッド・カプルスと、当時25歳のジェイソン・デイ。2人は手に汗握る熱戦を展開していました。
自分が発した言葉に責任を感じたカプルス
しかし、終盤の17番で左ラフから打ったカプルスの第2打は木に当たって跳ね返り、散々時間をかけて打った第3打もグリーンには届かず。「まるでコメディだ」と自嘲気味になったカプルスは、すでにグリーンに到達して待っていたデイに向かって「ジェイソン、先にパットしろ!」と叫びました。
その声に頷き、すぐさまパットしたデイは、慌ててしまったのか、3パットしてボギーを喫し、続く18番でも3パットしてボギー。リーダーボードを滑り落ちていったのです。
それを見たカプルスは「彼が崩れたのは僕のせいだ」と、すっかり落ち込んでしまいました。
しかし、翌日の最終日、デイはバーディー、イーグルで好発進し、首位へ再浮上しました。残念ながら3位に終わりましたが、デイが最終日に蘇り、大健闘した姿は、自分を激しく責めていたカプルスに「アナタのせいではないですよ」と言っているかのようで、お互いを思い合う2人の選手の姿は、ゴルフファンの胸に響きました。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)