プロのトーナメントでも、すい星のごとく現れて活躍する新人選手が時々いますが、そのままトッププロになれるのはそれほど多くはありません。今回は、舩越さんが若き日の松山英樹選手を取材していた時に、「彼は大物になる」と直感したエピソードです。
「アメリカツアーには大金が落っこちてる」と言った若き日の松山英樹
「この選手は大物になるな」と感じるのは、多くの場合、プレー中の姿を眺めているときです。タイガー・ウッズのようなスーパースターを相手に、臆することなくプレーし、堂々と渡り合う新人選手を見れば、誰もが「度胸が据わってるな。彼は大物になるぞ」と感じると思います。
しかし、松山英樹の大物ぶりを感じたのは、彼がプロ転向して初めて挑んだメジャー大会、2013年の全米オープンの練習日でした。
「どう?プロになって何か違う?何が違う?」
私がそう尋ねると、当時はまだ大学生で、あどけなささえ残っていた松山選手は、ちょっぴりいたずらっ子のような顔をしながら、こう答えたのです。
「全然違いますよ。だって、プロになったらお金が稼げるんですよ。アメリカツアーでは、そこらじゅうに大金が落っこちてるんですよ。それを拾わなきゃ!」
タブーを破り、当たり前のことを言いきった松山英樹の非凡さ
興奮気味にそう言った松山選手を見たとき、「彼は大物になるな」と私は直感しました。
言わないことが美徳とされるアジアでは、とりわけ日本では、スポーツ選手が「お金が目当て」などと言うことは、タブー視されています。実際、そんなことを言った日本人選手に私はそれまで会ったことがありませんでした。
でも、賞金を稼ぐことは、プロとして当然の仕事です。「それを目指して何が悪い?稼いでこそプロだろう?」
松山選手の無邪気な笑顔は、そう主張しているように感じられ、本当は当たり前のことをタブーを破って言い切った松山選手の強さや非凡さを直感しました。
あの日のことは、今でも、よく覚えています。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)