“木の声”と戯れるゴルフ「金乃台カントリークラブ」【舩越園子の日本ゴルフ探訪】

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太平洋クラブ初の単独運営コースとして生まれ変った金乃台カントリークラブ

ゴルフコース設計家の嶋村唯史氏によるコース改修を経て、2022年4月にグランドオープンした金乃台カントリークラブ(茨城県・牛久市)。1964年に開場された知る人ぞ知るこの名門コースの魅力に、ゴルフジャーナリストの舩越園子さんが迫ります。

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アイゼンハワー元大統領を煩わせていたオーガスタの大木

スタートホールの1番ティイングエリアから

 「金乃台を回りませんか?」

 そんなお誘いを受けたとき、コースの歴史を辿ってみたら、コース改修の際に「たくさんの木々が伐採された」という話が記されていた。

 「木を切る」というフレーズに誘われて真っ先に思い出されたのは、あのアイゼンハワー・ツリーの逸話だった。

 米国の歴代大統領の大半が大のゴルフ好きであることは、もはや周知の事実だが、その中でもとりわけ熱狂的なゴルフ好きと言われていたのが、ドワイト・D・アイゼンハワー元大統領だった。

 ホワイトハウスの敷地内の芝の上からでもアイアンやウエッジの練習を行ない、USGA(全米ゴルフ協会)から寄贈された練習グリーンをリスが荒らした際は「リスを退治しろ!」という大統領命令が発せられたと、モノの本には記されている。

 年間ラウンド数は800ラウンドを上回り、米国民の間では日に日に批判が高まった。

 「アイゼンハワー大統領はゴルフばっかりやっている!」

 しかし、当時の大統領の主治医は、「健康維持のためにはゴルフをすることが望ましい」と言って弁護したそうで、「古き良き時代」と呼ばれた50年代後半から60年代にかけての米国では、大統領のゴルフに関するわがままが聞き入れられた呑気な時代だったのだろう。

 そのころ、アイゼンハワーを最も煩わせていたのは、ある1本の木だった。

 オーガスタ・ナショナルの17番のフェアウエイ左側にそびえていたオークツリーは、アイゼンハワーがティーショットを打つたびに行方を阻む邪魔な存在。ついに大統領は「この木を切れ」と要求した。

 しかし、オーガスタ・ナショナルは大統領の要望を毅然と突っぱねたという話は、あまりにも有名である。

 「アイゼンハワー・ツリー」と呼ばれるようになったその大木は、その後、大統領のみならず、オーガスタ・ナショナルのメンバーたちやマスターズで戦った大勢の選手たちをも惑わせ、数々の歴史が刻まれた。

 しかし、長い歳月が流れる中で老朽化し、嵐にも打たれたその木が、2014年2月、惜しまれながら撤去されたことは、ゴルフ界の大きな出来事として報じられた。

メンバーたちの“木への想い” コース改修のテーマは「原点回帰」

16番ホールでは1打目が飛びすぎるとフェアウェイの木が邪魔になる可能性が

 アイゼンハワー・ツリーの話は、すでにおとぎ話のような昔々の話だが、たった1本の木を切ることでさえ、オーガスタ・ナショナルが頑なに拒んだことを思えば、金乃台の開場以来、コースやメンバーとともに半世紀以上の歳月を重ね、金乃台の歴史の一部になっていたはずのたくさんの木々を大胆に伐採することは、きっと簡単ではなかったのだろうと思いを馳せた。

 往年の名プレーヤー、陳清水氏によって設計され、1964年に開場した金乃台は、太平洋クラブによる初の単独運営コースとして生まれ変わることが決まり、名匠・井上誠一氏の最後の弟子として知られる嶋村唯史氏によってコース改修が行われ、2022年4月にグランドオープンした。

 コース改修のテーマは「原点回帰」。歳月の流れとともに伸び放題になっていた木々を思い切って伐採し、見通しも見晴らしも良いコースに変えることは、明るいイメージを醸成することにもつながり、それがグランドオープンする金乃台の自慢や誇りになることを目指したのだそうだ。

 しかし、1000人以上のメンバーたちの中には、長年、コース上で同じ空気を吸ってきた木々を切ることに難色を示した人々も見られたという。

 愛着のあるものを失いたくないという気持ちは、自分のゴルフを阻む1本の木を切れと命じたアイゼンハワー大統領の我がままとは180度異なる感情だったのだろう。

“木の声”を聞きながらラウンドすることの楽しさ

18番の3打目地点には3つのバンカーを新設

 いざ、木々が伐採されたとき、眼前に広がった新たな景観に古くからのメンバーたちは何を感じたのだろうか。

 2022年のコース改修ではバンカーの配置を変えたり、砂のバンカーをグラスバンカーに置き換えたりもされたそうだ。

 しかし、昔の金乃台を知らず、生まれ変わった金乃台をいきなり訪れた私には、新旧比較は叶わなかったが、18ホールを回りながら終始感じていたことは、「すごく楽しい」という不思議なほどの高揚感と充実感だった。

 1番ティに立つと、広々としたフェアウエイが腕を大きく広げて「ウエルカム!」と迎えてくれたような気がした。それは、フェアウエイの真ん中に立ちはだかっていた杉の木を切ったことで醸成されたスターティングホールの開放感なのだと知らされた。

 一方で、パー5の2番には、左サイドに松の木が並び、グリーン手前の中央部分には2本の大木が立っていた。それらをうまくかわしながら攻略しようと考えさせられ、このホールに立つ木々の存在意義が自ずと伝わってきた。

フェアウェイに4本あった松の一番手前を伐木した8番ホール

 8番でも9番でも、折り返し後のインコースでも、要所要所で絶妙な位置に立つ木々は、その存在感を一層アピールしてきた。

 だが、そうした木々に圧倒されることはなく、頭の中に描いた攻略ルート通りに「打てる」「打とう」「狙おう」という勇気や元気がどんどん高まっていたことに、ラウンド途中で気が付いた。

 そうなっていたワケは、日ごろから往々にして虐げられがちなレディスティが、金乃台ではすべてフェアウエイに正対する位置に置かれ、ゆったりした広さも保たれ、女性ゴルファーに対する気遣いやリスペクトの心が伝わってきたからだ。

舩越さんもきれいに整備されたレディスティでの快適なプレーを堪能

 そこでまたまた思い出された逸話は、かつて全米プロ覇者デービス・ラブから聞かされたゴルフ場設計の理念の話だ。

 「ある難関コースを家族全員でラウンドしたとき、『私には打つ場所がないホールが多すぎて、このコースは楽しくない』と言った祖母の言葉が僕の胸に突き刺さった。以来、すべての技量レベルのゴルファーが狙える場所、打てる場所、ときには逃げる場所を必ず確保することを僕は僕の設計理念にしている」

 プロゴルファーの戦いの場となれば、話は少々変わってもくるのだが、アマチュアのためのゴルフコースであれば、プレーヤーをただただ苦しめることが「難関」「名コース」の条件ではない。

 すべてのゴルファーを受け入れるコース、ゴルファーの努力や勇気が正当に報われるコースこそが、「いいコース」「楽しいコース」「もう一度回りたくなる名コース」なのだと私は思う。

 古くからのハウスキャディいわく、木々が伐採され、見えなかった場所が見えるようになったことで「打球を追いやすくなり、安全性が上がった」「コース全体が明るくなり、プレーの雰囲気も明るくなった」。それは、ゴルファーにとっても、キャディにとっても、喜ばしいことだ。

 「グランドオープン後は制服がオシャレになり、やる気が出ました」とは、笑って聞き流してはならない貴重な感想である。スタッフの職場環境を整えずして、一流のゴルフ場には決してなりえないことは、四半世紀にわたって米ゴルフ界をこの目で眺めてきた私が五感で確信した事実だ。

 練習場の傍らにはバンカーやアプローチの練習場が併設されており、広々とした練習グリーンはスタート前もラウンド後も存分にパット練習ができる。子どもから高齢者まで、みんなが腕を磨ける環境が整えられている。

クラブハウスも改装され心地いい空間に

 美しいクラブハウス、自然光が心地よいレストランと美味しいランチ、癒される浴場。どれも広い視野に基づく素敵なものばかりだったが、私の心に一番残ったのは、たくさんの木々を伐採した後の今、コース上のあるべき場所に佇む木々の存在感。そして、彼らから聞こえてきた呼び声だ。

 「さあ、あなたは、この木のどこを通っていきますか?」

 上下左右どこから回避し、どう攻めるか。うまくできたら「よくできました」。失敗したら「また次回、挑戦してね」。

 そんな「木」の声が聞こえてくるようで、すべてのゴルファーが心底「楽しい」と思えるゴルフが、そこにはあった。

 「金乃台を回りませんか?」というお誘いは、「木の声と戯れるゴルフを楽しんでみませんか?」と同義なのだ。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
写真提供:金乃台カントリークラブ

金乃台カントリークラブ
茨城県牛久市柏田町3432
公式ホームページ

最寄り駅のJR牛久駅まで上野駅から50分、東京駅からも60分。牛久駅からはクラブバスで約5分の好アクセス。

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