ニック・ファルドにとってかけがえのない存在だった女性キャディの話【舩越園子 ゴルフの泉】

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1992年の全英オープンで優勝したときのニック・ファルドとファニー・サニソン(右) 写真:Getty Images

キャディは、プロが試合中に唯一相談できる相手です。その存在がどれほど大きいものなのか。今回は、船越さんの記憶の中に残る1人の女性キャディのお話です。

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フィールド以外でも選手を支えた名キャディ、ファニー・サニソン

 ニック・ファルドの名前は、古くからのゴルフファンなら誰もが知っていると思います。1987年の全英オープン優勝を皮切りに、2年後の1989年にはマスターズを制し、翌年にはマスターズと全英オープンで優勝。その2年後の1992年には、またしても全英オープン制覇を果たし、1996年のマスターズでも勝利して、メジャー6勝を果たしたイギリス人です。

 ファルドの傍らには、いつも金髪のポニーテールを揺らしながら歩く女性キャディの姿がありました。

 彼女はファニー・サニソンという名のスウェーデン人。阿吽の呼吸で次々にメジャー大会を制覇したファルドとサニソンの名コンビぶりは、当時のゴルフ界で輝いていました。

 あのころ世界最強だったファルドは、寡黙で気難しいイギリス人と見られていたため、アメリカ人記者たちは、いつも気さくなサニソンにすり寄り、ファルドの情報を聞き出そうとしていました。でも、サニソンは、ボスであるファルドの情報を明かすことはなく、誘導尋問のような質問も笑顔でかわしていました。そんなサニソンは、ファルドにとって頼もしい相棒だったのです。

新車をプレゼントしてまでファルドは必死に引き留めたが…

メジャー6勝をあげた名コンビだった(写真は1992年の全英オープン) 写真:Getty Images

 しかし、アスリートの世界は盛者必衰。年齢を重ねるにつれ、ファルドのランキングは下降していき、その状況を冷静に受け止めたサニソンは、そろそろキャディ業から引退し、母国の恋人と結婚しようと思い始めました。

 ところが、ファルドのほうは引退どころか復活を目指しており、頼みの綱のサニソンをなんとかして引き留めなければと考えたのでしょう。

 ある日、サニソンを自宅に呼び、ガレージに連れていきました。そこにはピカピカの新車がドーンと置かれていたそうです。「この車は、キミのものだ。だから、どうか辞めないでほしい」

 しかし、サニソンはファルドの懇願も新車の誘惑も振り切って、去って行ってしまいました。ファルドの落胆を思うと、とても気の毒に感じられましたが、彼にとってサニソンの重要性がそこまで大きかったこと、そこまで彼がキャディを重要視していたことは、私にとっては驚きでもありました。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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