同伴競技者のスロープレーに悩まされるのはプロもアマも同じ。今回は、そんなスロープレーにまつわる珍事から発展した、驚きの結末についてのお話です。
スロープレーがきっかけで起きた珍事
2005年の春、アメリカツアーのある試合の途中で、前代未聞の事件が起こりました
クイックテンポでさっさとプレーするロリー・サバティーニという選手が、アメリカツアーで最もプレーのペースが遅いと言われていたベン・クレーンという選手と同じ組でプレーしていたときのこと。サバティーニはクレーンのスロープレーぶりに業を煮やし、あるホールでクレーンがセカンドショットを打つ前に1人でそそくさとグリーンへ到達し、パットも終わらせ、自分だけ先にホールアウトしてしまいました。
そして、腕組しながらグリーンの奥側に立ち、ようやくセカンドショットを打とうと構えたクレーンを睨みつけていたのです。
それはまさに前代未聞の珍事でした。どちらが悪いのかと言えば、打つ順番を無視して、さっさとホールアウトしてクレーンを威嚇したサバティーニの態度のほうが悪かったことは明白でした。実際、サバティーニはマナー違反を問われて罰金を科され、クレーンに謝罪することになりました。
動画での広告収入が大きな転機に!
一方、クレーンはクレーンで深く反省し、「もう少し迅速にプレーできるよう心掛けます」と語り、この事件は一件落着。その後、クレーンのプレーのペースは目に見えて早くなり、彼の努力はツアー仲間からも認められ始めましたが、人々の間に定着してしまったスロープレーヤーのマイナスイメージはなかなか払拭されず、「早く打てよ」などと相変わらず野次が飛んでいました。
悩んだ末、クレーンは妙案を捻り出しました。
「僕の人間性を知ってもらえるような動画を撮って、インターネットで流そう」。
そのときから、クレーンの動画制作が始まりました。真っ赤なウェットスーツに身を包み、頭にはバイク用のヘルメット、ピンクのソックスに白いスニーカーという奇抜なファッションでトレーニングを行なう様子を撮影して配信したところ、60万ビューを超える大ヒットを記録。クレーンのファンキーな素顔を知った人々から続々と声援が寄せられ、励ましは日増しに大きくなっていったのです。
「これはすごい。なんて効果的なんだろう」
そう実感したクレーンは、もっとファンキーな動画を配信し、ビッグヒットを記録して広告収入が得られれば、社会で困っている人々へ寄付することができると考えました。
2011年の春、クレーンはアメリカツアーの選手仲間3人を誘い、ラップ調の歌と踊りを披露する「ゴルフボーイズ」なる4人組のバンドを結成。そしてゴルフボーイズは未曽有の大ヒットを飛ばしたのです。その「ゴルフボーイズ」に関する話は、またの機会に。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)