10年ぐらい前まで、アメリカツアーでは毎年1月になると、選手たちのさまざまな情報をまとめたメディアガイドが配布されていました。原稿を書く上でとても大事な存在で常に持ち歩くものでしたが、私が秘かに楽しんでいたのが、選手たちの「特別な興味」のコーナー。今回は、そんな選手たちの趣味についてのお話です。
メディアガイドには選手のあらゆる情報が記載されていた
メディアガイドは、名前のつづりや発音、生年月日や生まれ育った場所、出身大学や現在の居住地、それに家族構成や家族の名前、家族の生年月日、それにアマチュア時代の成績やプロ転向後のすべての戦歴など、ありとあらゆる情報が満載された「選手名鑑」のような分厚くて重たい図鑑のような本でした。
かさばるし、とにかく重たいので、持ち歩くには不便でしたが、貴重な情報がぎっしり詰まっていて、原稿を書く上ではとても役立っていたため、私はどこへ行くときも、そのメディアガイドを一生懸命、持って歩き、古くなったメディアガイドは自宅の本棚に年ごとに順番に立てて保存していました。
しかし、紙の資料を減らすことが求められるようになった近年は、メディアガイドもデジタル化され、重たい選手名鑑は姿を消してしまったのです。持ち物が軽くなった分、便利になったのかもしれません。でも、毎年、1冊ずつ増えていったメディアガイドのコレクションが途絶えたことは、古き良き時代の産物がまた1つ失われたような気もして、少しばかり淋しく感じられました。
そのメディアガイドで私が秘かに楽しんでいたのは、選手それぞれの「特別な興味」を紹介しているコーナーでした。平たく言えば、趣味の紹介です。
2000年代のはじめごろ、選手たちの8割ぐらいは「釣り」と記しており、そのほかでは「読書」、「ハンティング」、「ミュージック」といったものが人気でした。ちょっぴり変わったものでは、「株」や「栄養学」、「犬の訓練」というのもありました。
スーパースターもテレビゲームでリフレッシュしていた!
そんななか、タイガー・ウッズの「特別な興味」の欄には、彼がデビューした当時から「バスケットボール、釣り、スポーツ全般」と書かれていました。しかし、ウッズが日ごろ、空いた時間にひっそり楽しんでいたのは、バスケットボールや釣りではなく、テレビゲームでした。
スーパースターになると、スポンサー契約などとの兼ね合いもあり、商業ベースに乗るものを気軽に趣味だとは言えない大人の事情があったのでしょう。だからそういう意味で、当たり障りのない書き方をしていたのだと、すぐにわかりました。
愛国心溢れるフランク・リクライターという選手の「特別な興味」には、「軍隊活動に参加すること」とありました。「軍隊がこの国を守ってくれているからこそ、僕らは安心してゴルフができる。だから軍隊の訓練や活動に参加して、彼らの苦労を知り、感謝の念を強めたい」とリクライターは言っていました。
「特別な興味」の欄に、「聖書の研究」と記していた選手もいました。パット・ベイツという選手は敬虔なクリスチャン。彼は毎週、聖書の中の気に入った一節を小さな紙に書き写し、ゴルフバッグにしのばせて試合に臨んでいたそうです。
「ここぞという大事な場面で、その紙を取り出し、その一節を読むと、気持ちが落ち着くんだ」
ベイツはそう語ってくれたのですが、実際にベイツが試合中に小さな紙を取り出す場面に、私は一度も出くわすことができませんでした。それが、ちょっぴり残念です。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)