日本ではアウトドアブームで、最近ではキャンピングカーの売れ行きがいいという話を聞きます。今回はキャンピングカーとはちょっと違いますが、車内で生活できてしまうPGAツアーで戦う選手達の豪華バスについてのお話です。
移動時間こそ選手たちが唯一、心安らげる時間
アメリカツアーのトッププレーヤーたちが次々にプライベートジェットを購入していった2000年代のはじめごろ。「購入する」と言っても、その金額は破格でしたから、プライベートジェットを持つことは、ステイタスシンボルのように思われていました。
しかし、空を飛ぶ移動ではなく、あえて陸路の移動を選ぶ選手もいました。広大なアメリカ大陸を陸路で移動するとなると、何十時間、ときには数日を費やす長距離の大移動もあります。
その大移動を快適に過ごすために、彼らは豪華なバスを購入し、さらにそれを自分仕様に改造して、プライベートジェットならぬプライベートバスを所有し始めました。
その第1号となったのは、アメリカ人の人気選手、デービス・ラブ3世でした。さっそくラブのバスに乗せてもらった私は、本当に驚きました。バスの中には大きくてお洒落なソファがドーンと置かれ、シャワーやベッド、キッチン、トイレもすべて完備。まるで一流ホテルの一室かと思えるぐらい、そこには、きれいで快適な空間が作り出されていたのです。
「このバスがあれば、家族揃って移動できるし、みんな一緒に滞在もできる。最高だ」
そう言って自慢げに笑ったラブは、とてもうれしそうでした。
コースの傍らに豪華バスが並ぶ光景はPGAツアーならではのもの
飛行機嫌いで知られていたジョン・デーリーも、ラブに続いて豪華バスを購入し、自らハンドルを握って移動するようになりました。やがてラブとデーリーは、「豪華バス愛好会」を結成。経済的に余裕がある選手たちは、次々にその愛好会に加わり、一時期は試合会場の一角に、出場選手たちの豪華バスがずらりと並ぶ光景が見られるようになっていました。
これから上を目指そうとしていた若い選手や下位選手たちは、自分が高額賞金を稼げるようになったら、購入するのはプライベートジェットが先か、豪華バスが先かと秘かに悩んでいました。
そんなのどかな日々が、今では懐かしく思い出されます。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)