パットを打とうとすると手や腕、体がどうしてだかうまく動かなくなる奇妙な病気「イップス」。今回は、そんな「イップス」と共に戦った男のお話です。
技術的な問題以外にも原因があるイップス
ドイツ出身のマスターズ・チャンピオン、ベルンハルト・ランガーは、アメリカツアーで人種差別的な出来事をいくつも経験しながら戦っていたあるときイップスに陥り、パットがうまくできなくなりました。
イップスは往々にして精神的なことが原因と言われています。緊張やプレッシャー、あるいは辛く悲しい体験も原因になるようで、ランガーの場合もイップスの原因はメンタル面だったのだろうと、彼自身、感じている様子でした。
合計4度もひどいイップスになったランガーは、「もう、あいつはダメだろう」と噂されるたびに、独自のグリップ方法を考案し、変則的な握り方でパターを握ることで、イップスを乗り越えていきました。
克服し続ける精神面の強さを持つランガーは唯一無二のプロ
「スポーツ心理学者や医者にも、何度も相談しました。でも結局は自力で立ち直る以外に道はないと思いました」
世界で58勝を挙げながら、アメリカでは1993年のマスターズ優勝を最後に、わずか3勝止まり。彼の実力から考えれば、あまりにも少なすぎる勝利数は、アメリカで戦う外国人選手の草分けだったがゆえに辛酸を舐めた事実の反映でした。
「でも私はアメリカ人の妻と結婚してアメリカの国籍も取ったから、他のヨーロッパ人選手たちほどは嫌な思いはしていないんです」。
誰かをかばうように言ったその言葉も悲しく感じられました。
しかし、そんなランガーがシニア入りして以来、何かを取り戻すかのように勝利を重ね、2010年に全英シニアと全米シニアの両方を続けざまに制して輝いたことが、私はとても嬉しかったです。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)