2022年マスターズで2021年2月の自動車事故からの奇跡の復活を遂げたタイガー・ウッズですが、過去に幾度となくけがや事故からの復活を遂げています。今回はその中でも特に、舩越さんが“生涯忘れない”と思った大復活のお話です。
世界中を感動させたマスターズでの“奇跡の復活”
2022年のマスターズでは、タイガー・ウッズが508日ぶりの米ツアー復帰を果たしただけでなく予選を突破。47位に終わりましたが、4日間を戦い抜いた姿は“奇跡の復活”として、世界中のファンに感動を与えました。
ウッズの復活といえば、4年前の2019年春にマスターズでタイガー・ウッズがメジャー15勝目を挙げたときにも、その優勝は「ウッズの大復活」と呼ばれ、世界を沸かせました。
確かに、あれはウッズの大いなる復活でした。2017年4月に生涯4度目の腰の手術を受け、手術後は歩くことも起き上がることもできず、リハビリ生活は激痛を伴うものでした。
痛みから逃れたい一心で、処方された薬をめちゃくちゃに飲み、朦朧としながら車のハンドルを握ってしまったウッズのあの逮捕劇は、世界中を驚かせ、落胆もさせました。世界ランキングは1199位まで転落しました。
しかし、そんなどん底からウッズは這い上がりました。彼の執念と意地とプライドが、そうさせたのだと思います。
震えるほどの感動を味わった2018年の復活
でも、「これぞ、ウッズの大復活だ」と私が感じたのは、実を言えば、2019年のマスターズの前年の秋のこと。ウッズは2018年のアメリカツアー最終戦のツアー選手権を制し、5年ぶり、実に1876日ぶりに勝利を挙げました。
何度も手術を重ねた腰や膝で戦っていた当時42歳のウッズは、無理や無茶が禁物であることを自身に言い聞かせていました。「勝つためには、勝ちたい気持ちを抑え、ピンを狙うのではなくグリーンセンターへ乗せていくのが最善の道」。そんな安全着実なプランをウッズは忠実に実行し、勝利への道を黙々と歩んでいました。
最終日の18番。ウッズの優勝を待ちきれなくなった大観衆がセキュリティの制御を振り切ってフェアウエイにどっとなだれ込み、大観衆のうねりの中でウッズは勝利へのショットを放ち、ウイニングパットを沈めたのです。
「あのとき、最初のうちは大観衆が背後から追いかけてくる気配を耳だけで聞いていた。僕は前だけを見続けて振り向かなかった。でも、ショットに入る直前、ふと見たら、フェアウエイの左半分が人で覆いつくされていた。大勢のファンから送られた拍手や声援が僕の何よりのエネルギーになった」
その一部始終を目撃して、私は震えました。震えるほどの感動を生まれて初めて味わいました。あの大観衆のうねりは、歴史のうねりでした。あの勝利こそは、ウッズの大復活優勝。あの日のことを、私は生涯忘れないと思います。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)