キーガン・ブラッドリーが一獲千金より優先させたこと【舩越園子 ゴルフの泉】

  • URLをコピーしました!
キーガン・ブラッドリー 写真:Getty Images

ゴルフは自己申告を重んじる紳士のゲームと言われますが、ルール違反かどうか疑わしい状況で自ら判断をすることは難しいと思います。ましてや、大金がかかるプロの試合ではなおさらです。今回は、メジャーチャンピオンでもあるキーガン・ブラッドリーが示した、ゴルファーとしてのあるべき姿の話です。

INDEX

一獲千金より優先されたゴルファーとしてあるべき姿

 キーガン・ブラッドリーというアメリカ人選手がいます。2011年にメジャー大会の全米プロを制した実力者です。

 そのブラッドリーが2014年のシーズンエンドに行なわれていたBMW選手権の3日目の朝、突然棄権し、周囲を驚かせました。BMW選手権の翌週は最終戦のツアー選手権。その最終戦に進出するためには、アメリカツアーのランキングでトップ30に入る必要がありました。最終戦に出場して、もしも年間総合優勝に輝けば、ボーナスとして10ミリオン、つまり10億円以上を手に入れる可能性もありました。しかし、そのとき28位だったブラッドリーは、BMW選手権の途中で棄権してしまったため、最終戦には進めなくなりました。

 しかし彼は、最終戦進出より、10億円獲得より、ゴルファーとしてあるべき姿、選ぶべき道を優先し、自ら棄権する決断を下したのです。

2014年BMW選手権でのブラッドリー 写真:Getty Images

ゴルフは自己申告を重んじる紳士のゲーム

 その原因となった出来事は初日の18番で起こりました。ブラッドリーがグリーンを狙って打ったボールがバンカーのすぐ上の土の中に埋まった格好になりました。

 ルール委員は、「自分のショットでできたピッチマークに埋まったボールは無罰で取り出し、ドロップできますよ」とブラッドリーに伝え、言われた通り、ブラッドリーは無罰でドロップして次のショットを打ちました。

 しかし、ラウンド後、一人の観客が近寄ってきて、「あなたのボールは、ワンバウンドしたあと、元々あそこにあった穴にたまたま入った」と告げたのです。その瞬間を目撃した人は他にはおらず、テレビカメラもその場面を捉えてはいませんでした。ブラッドリーは観客から告げられたことをすぐにルール委員に伝え、判断を仰ぎました。するとルール委員は、「いやいや、バウンドしたボールが、もともとあった穴にもぐり込むとは考えにくい」と観客の目撃談を否定。「何も気に病むことはないですよ」とブラッドリーを励ましました。

 「それならば」と、ブラッドリーは気を取り直して2日目をプレーしました。でも、「あの観客が言ったことが事実だったとしたら、僕はルール違反を見逃してもらって生き残ることになる」と思えてきて、3日目の朝、自ら棄権を申し出たのです。
「疑わしい以上は、こうすることが正しい判断、正しい道です」

 ゴルフは自己申告を重んじる紳士のゲームです。ブラッドリーの行為は、ゴルファーとして人間として、あまりにも素晴らしいと世界中から賞賛の声が寄せられ、一獲千金への道を自ら閉ざしたブラッドリーは、それ以上の名声を得ることになったのです。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

この記事が気に入ったら
いいねしてね!

LET’S SHARE
  • URLをコピーしました!
INDEX