試合に負けたときのは、思わず負け惜しみを言ってしまうことはよくあることです。今回は、オーストラリア出身のマーク・リーシュマンが試合に負けた時に口にした格言の話です。
苦労人・マーク・リーシュマン 人生のプライオリティ
「ゴルフは単なるゴルフです」というフレーズを試合で負けた選手が口にすると、なにやら負け惜しみのように聞こえることがあります。しかし、マーク・リーシュマンが言った「ゴルフはゴルフであって、生死を左右するものじゃない」というフレーズには、「本当に、そうだよね」と頷かされました。
オーストラリア出身のリーシュマンは現在38歳。PGAツアーで通算6勝の実績を誇るトッププレーヤーですが、プロ転向する以前は、昼間はゴルフの練習、夜はゴルフの費用を稼ぐためにレーザーカッターで紙を裁断する工場で夜勤で働いていたそうです。
「工場での作業は、ちょっとでも気を抜くと手や足をすぐに失うぐらい危険だった。でも、あのころの僕はゴルフのためには命がけで何だってやっていた」
苦労しながらお金を稼ぎ、2005年にプロ転向して渡米。それからも下部ツアーや韓国ツアーで下積みの日々を経て、2009年にようやく一流の舞台、アメリカツアーに到達しました。
そんなリーシュマンの考え方が大きく変わったのは2015年の春でした。彼の愛妻が敗血症と診断され、「生存できる可能性はわずかだ」と医師から告げられて、リーシュマンは絶望の淵に追い込まれました。ところが、妻は奇跡的に回復し、すっかり元気になったのです。
そのとき、リーシュマンの人生のプライオリティは、ゴルフではなく命や家族に変わりました。当たり前のように生きられることが、どれほど幸せであるかを彼は痛感したのだそうです。
「ゴルフはゴルフであって、生死を左右するものじゃない」
その年の夏、リーシュマンは全英オープンに出場し、プレーオフで惜敗しました。しかし、負けたにも関わらず、いい表情をしていたリーシュマンが、私にはとても「いい男」に見えました。
それから2年後の2017年、年間2勝を挙げて絶好調だったリーシュマンは、秋に韓国で開催された大会で、またしてもプレーオフで惜敗しました。でも彼は負けたにも関わらず、やっぱりいい表情をしながら、こう言ったのです。
「ゴルフはゴルフであって、生死を左右するものじゃない。2位でも最悪ではない」
なるほど。人生で一番大切な命や家族が無事であれば、それ以外のことは、たとえ負けても、少々失敗しても、最悪ではない。そう考えれば、クヨクヨすることなんて何もない。もう何も怖くない。リーシュマンを眺めていたら、そんな気がしてきて、私もなんだか元気が出ました。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)