熱狂的なファンが多いPGAツアーでは、選手たちの素晴らしいプレーに大歓声がたびたび起こります。中でもフェニックス・オープンは、ツアー屈指の集客数を誇るモンスタートーナメント。そんな大観衆の中で起きた、ちょっと不思議で、ちょっと心温まるお話です。
フェニックス・オープンは唯一無二のトーナメント
アリゾナ州で開催されるフェニックス・オープンは、毎年、PGAツアーで最大観客数を記録する大会として知られています。TPCスコッツデールには、1週間で延べ60万人以上が詰め寄せます。
2016年と2017年にフェニックス・オープンを連覇した松山英樹は、その翌年の2018年大会では、開幕前から大きな注目を浴びていました。
水曜日に行なわれたプロアマ戦で、松山選手が名物ホールの16番にやってくると、ポップな音楽が鳴り響き、その場はまるでコンサート会場の様相でした。
「ディフェンディング・チャンピオン、ヒデキ・マツヤマ!」
アナウンスに合わせ、松山選手が手にしたアイアンを頭上にかざすと、割れるような拍手と大歓声が巻き起こり、すぐそばの誰かの声も聞き取れないほどの賑わいになりました。
少女のかぼそい声を聞き取る超一流選手の不思議な力
松山選手が最終ホールの18番にやってきたときのこと。
ギャラリーの喧騒の中、ティグラウンドの傍らで「マツヤマー、マツヤマー」と、かぼそい声で叫び続けるアメリカ人の幼い少女がいました。
ロープ際にいた私には、なんとか聞き取れる声でした。しかし、ティグラウンド上の松山選手には届くはずもない声でした。
しかし、ティショットを打ち、フェアウェイへ向かって歩き出した松山選手は、少女の泣き出しそうな声をキャッチしたのか、彼女の姿を目で探し、彼女の方へ歩み寄っていったのです。そして、小さな手に握られていた大会フラッグにサインして、握手も交わしました。
あの大喧騒の中で、松山選手に少女のかぼそい声が届いたことは、とてもとても不思議でしたが、松山選手を見つめる少女のとろけそうな表情を見たとき、周囲に居合わせた人々も、そして私も、ちょっぴり幸せな気分になりました。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)