選手とキャディはかけがえのない存在ですが、ときにパートナーを変える選択が必要になる時があります。選手と同じようにキャディにとってもお金を稼ぐために選手を選ぶこともあります。今回は、様々な声を受けながら栄冠を勝ち取った選手とキャディのお話です。
選手の鞍替えで罵声を浴びる
2007年のマスターズを制したのはザック・ジョンソンというアメリカ人選手でした。
表彰式を終えたジョンソンが、次は優勝会見、その次は挨拶回りという具合に忙しく動き回っていたとき、私はオーガスタ・ナショナルのクラブハウスの裏手で、ジョンソンの相棒キャディのデーモン・グリーンとこっそり会っていました。
当時、日本でジョンソンやグリーンを知っていた人は決して多くはありませんでしたが、私はキャディのグリーンとは、ずいぶん昔から親交がありました。
グリーンは、かつてはスコット・ホークというベテラン選手の相棒キャディでした。しかし、ジョンソンがPGAツアーにデビューした2004年からは、ホークを離れてジョンソンのバッグを担ぐようになりました。
そうやってグリーンがくら替えしたことに対して、アメリカのゴルフ界では賛否両論が巻き起こりました。 そして、ジョンソンは早々に1勝を挙げたものの、その後の成績はパッとしなかったため、周囲からは「それみたことか」という声も聞かれるようになりました。
ジョンソンとグリーンは、そんな嘲笑の中で我慢の戦いを続けていたのです。
格別の思いで手にしたマスターズタイトル
そんな経緯を知っていた私は、ジョンソンとグリーンが2人で達成したマスターズ制覇が嬉しくてたまらず、優勝が決まった途端、メディアセンターを飛び出し、直接「おめでとう」を言いたい一心で18番グリーン方向へ向かいました。
表彰式が終わり、ようやく落ち着いたキャディのグリーンと私は、クラブハウスの裏手の一角に隠れるように座り、優勝した選手のキャディだけが手にすることができる18番グリーンのピンフラッグを2人でしげしげと眺めました。
「長い道のりだったなあ」
「うん、ホント、長い道のりだった」
マスターズの優勝キャディと、そんな会話を交わし合ったあの時間は、私にとって忘れがたき思い出です。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)