タイガー・ウッズのメジャー勝利数は15。驚異的な数字ですが、その数だけ敗者がいます。もしも、ウッズがいなかったら?今回はそんなウッズのライバルとして戦ってきた2人の選手のお話です。
タイガーがいたからこそ頑張れた
2017年8月に開催された全米プロの開幕前の水曜日。アメリカ人のフィル・ミケルソンと南アフリカ出身のアーニー・エルスが会見場に呼ばれ、壇上に座りました。
2人の目の前には、「おめでとう、100回」とデコレートされた大きなケーキが飾られていました。そのときどちらも47歳だった2人は、その大会でメジャー出場通算100試合目を迎えており、そのお祝いのケーキだということがわかりました。
ゴルフ界では毎年、マスターズ、全米オープン、全英オープン、全米プロという4つのメジャー大会が開催されます。このメジャー4大会すべてに毎年出場したとしても、通算100試合に出るためには最低でも25年かかります。
それほどの長期間、トップレベルのゴルフを維持し、メジャー4大会に挑み続けることは並大抵ではなく、だから2人の「メジャー出場100試合目を祝おう」ということになったのです。
ミケルソンはメジャー5勝、エルスはメジャー4勝の実績。「いやいや、もっと勝ちたい」と穏やかに笑う2人に、アメリカのメディアの1人が面白い質問を投げかけました。
「もしもタイガー・ウッズがいなかったら、自分はメジャーでもっと勝っていたと思いますか?」
そう尋ねられたミケルソンは、「いやいや、タイガーがいなかったら僕はこんなに一生懸命に頑張ってこなかっただろうから、メジャーで5勝も挙げられなかったと思う」と、優等生的に答えました。
タイガーがいなければもっと勝てていた
すると、エルスはいたずらっ子のような顔をしながら、「僕の意見は違う。僕はタイガーのプロデビュー前にメジャーで1勝していたけど、タイガーはそんな僕をスターの座から押し出し、僕はすっかり陰ってしまった。実際、タイガーが優勝、僕が2位というパターンは何度もあった。だから、もしもタイガーがいなかったら僕はもっと勝っていた」とジョークを交えながら答え、その場を笑いの渦に巻き込みました。
「でも、タイガーがいなかったらゴルフ界の繁栄もなかった。だから僕はタイガーにすごく感謝しているんだ」
エルスがそう付け加えると、会見場に拍手が起こり、みんな笑顔で大きなケーキを一口ずつ分け合いました。
そういう場所に居合わせたことが、私には妙にうれしく感じられました。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)