PGAツアーに挑戦している選手はみんな、いつか栄冠をつかむために努力を続けています。その努力はいつ実るのかは誰もわかりません。今回は強い気持ちを持ち続けて、執念で優勝を手にした男のお話です。
親友に明かしたダフナーの覚悟
2004年にアメリカツアーにデビューして以来、未勝利のまま、淡々黙々と戦い続けていたジェイソン・ダフナーは、地味で目立たない雰囲気とは対照的に、「優勝するためなら、すべてを失ってもいい」と親友の今田竜二選手に告げたそうで、今田選手は「アイツ、すごいですよ」とダフナーの熱い想いに、とても驚いていました。
ダフナーといえば、2011年のフェニックス・オープンでプレーオフに敗れ、単独首位で最終日を迎えた全米プロでもプレーオフに敗れました。
あの全米プロの3日目の夜、私はダフナーと街中のステーキハウスで偶然出くわし、「明日がんばってね」と声をかけたら「ありがとう」と一言だけ返してくれました。
悔しさを積み重ねて栄冠を手にしたダフナー
そして翌日、プレーオフで惜敗したダフナーに、前日同様、「残念だったけど、いいゴルフでしたね」と声をかけたら、彼はやっぱり「ありがとう」と一言だけ返してくれました。
しかし、自ら右手を差し出してきた彼の目は、悔し涙で濡れていました。その涙を見たとき、「すべてを失ってもいい」という彼の言葉は本物なのだと確信できました。
それから1年後の2012年。
ダフナーはチューリッヒ・クラシックで、デビュー以来164試合目にして、ついに初優勝を挙げ、その翌週、美しいフィアンセと結婚しました。
その翌々週、バイロン・ネルソン選手権を制し、アメリカツアーのポイントランキングで1位に浮上し、時の人と化したのです。
ゴルフクラブを握って20年。35歳にして初めてダフナーに訪れた温かい春でした。すべてを失う覚悟で挑み続けたからこそ、彼はたくさんのものを手に入れたのだなと感じさせられた春でした。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)