ニック・プライスにかけられた“嬉しい?”ひと言とは【舩越園子 ゴルフの泉】

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1992年の全米プロで優勝した時のニック・プライス 写真:Getty Images

英語をそのまま翻訳するとニュアンスが変わることがありますが、今回はニック・プライスからかけられたある言葉に関するお話です。

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ニック・プライスは心やさしきメジャーチャンプ

 2015年4月。マスターズの舞台、オーガスタ・ナショナルのクラブハウス周辺で取材をしていたら、往年のビッグスター、ニック・プライスに出くわしました。

 彼は私に「Still working ?(えっ、まだ仕事しているの?)」と驚きの声を上げたのですが、私は彼の「まだ」という言葉がちょっぴり気になりました。

 ジンバブエ出身のプライスは1990年代前半にメジャー3勝を挙げた大物選手です。黄金時代の彼を、私は毎週、必死に追いかけ、取材を重ねるうちに、すっかり親しくなりました。彼の自慢のクラブ工房に招いてもらったこともありました。

 50歳の誕生日が近づいたころのプライスは「もうすぐシニア入りだと思うと淋しい」とこぼしていましたが、いざ50歳になった2007年からは、あっさりシニアツアーへ移行。

 それからさらに8年後のあの2015年のマスターズのときは、彼は出場するためではなく、若い選手たちのプレーを観戦するために訪れていました。

ジャーナリストにはシニア入りも引退もない

1994年全米プロでのニック・プライス 写真:Getty Images

 そんなプライスから見て、私が相変わらず取材していた姿は、「まだ仕事しているの?」と感じられたのだと思います。

 ちょうどそのころ、トム・ワトソンが「来年のマスターズを最後のマスターズにする」と発表し、ニック・ファルドも「今年の全英オープンを最後の全英オープンにする」と宣言しました。

 同じ時代の大物たちが次々に引退を発表したことは少々淋しく感じられました。

 でも、考えてみれば、私にはシニア入りも引退もありません。この心と体とペン1本、いやパソコン1台さえあれば、過去と現在と未来を綴り続けることができるんだと自分に言い聞かせたら、元気が出ました。

 英語の「still」は「まだ?」とか「いまだに?」という意味ですが、「いまなお」という意味もあります。

 「いまだに仕事?」ではなく「いまなお楽しく仕事している」なら素敵な響きです。そう思い直して、私は胸を張りました。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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