PGAツアーで戦う選手は自分の道具を大切にします。プロの選手にとって仕事道具なわけですから当然と言えば当然ですが、その当たり前のことがなかなかできないのも事実。今回は、メジャーチャンピオンとなった松山英樹選手の強さにまつわるお話です。
「才能は有限、努力は無限」 その言葉を守り続けている
2021年のマスターズを制覇した松山英樹選手に、内閣総理大臣顕彰が授けられました。顕彰授与のニュースを聞いたとき、私が思い出したのは、松山選手が東北福祉大学時代に暮らしていた学生寮の部屋の様子です。
松山選手の部屋のドアの横には、「松山英樹」と書かれた表札がかけられていました。そのドアを、特別にちらっとだけ開いてもらったとき、一瞬だけ見えた彼の部屋の中には、自分で洗濯したと思われるゴルフウエアやTシャツが何点もきちんと干されていて、その光景は、彼が毎日、地道に真面目にコツコツ生きていることを物語っていました。
「今、目の前のできることをやる」とは、大学ゴルフ部の阿部監督の教えでした。
「才能は有限、努力は無限」。これも阿部監督から教えられた言葉で、松山選手はこの言葉を書いた紙を部屋の中に貼って、日々、眺めながら努力を積んできたそうです。
自分ができることをコツコツを積み上げてきた結果のメジャー制覇
そういえば、アメリカツアーにデビューしてからの松山選手は、試合のラウンド後、いつも選手用の駐車場の一角で、自分が履いたゴルフシューズを自分の手で洗っていました。
とりわけ、雨上がりのラウンドのあとは、泥がたくさん付いたシューズの底やサイド部分にホースで上手に水をかけながら、小さなブラシで泥を落としていました。
とても器用な洗い方で、よくそれでシューズの中に水が入らないなあと、いつも不思議に思いながら眺めていました。
きっと彼はそうやって、幼いころからゴルフの道具を大事に手入れし、ウエアも大事に選択し、そして練習を積んで、コツコツ歩んできたのでしょう。
そう思いながら、松山選手と話をした彼の米ツアー参戦初期のころのことが、とても懐かしく蘇ってきました。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)